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現代風かぐや姫

作者: 扇状 律華

かぐや姫を現代風に書き換えると…どうなるんだろう?そう思って綴った作品です。似たり寄ったりなものにはなるんだろうな…とかは思って書いてあります。

 俺がまだ大学2年生の頃だった。

レポートで帰りが遅くなった夜道を歩いていると、電柱の影に傘が開いた状態で落ちているのを見つけた。雨も降っていないのに何で傘なんか?と思って覗き込んでみると、赤ん坊が入っているダンボールがあった。


 捨て子なんて今のご時世にあるなんて思ってなかったので、俺はどうすればいいのか分からなかった。とりあえず見捨てる訳にはいかないので、一旦自宅に連れて帰ることにした。


 家に帰ってから改めて赤ん坊を見ると、手に一枚の紙が握られているのに気付いた。俺はそれを読んでみると、この子は捨て子で間違いないんだ。と確信する事になった。ちなみに紙に書いてある内容は至ってシンプルで、捨て子の名前は「かぐや」と言うらしい。


 拾って持ち帰った上に名前まで知ってしまった。俺はこの子をどうすればいいんだ?色々と考えながら かぐや の相手をしていると俺は一つの結論に行き着いた。

 いや、今思うとそれがそもそも間違いだったんだと思うけれど。俺が行き着いた結論はこうだ。幸いにも俺は蓄えがある。拾ったんだ、責任持って育てよう。と、そう思ってかぐやによろしくな?と挨拶すると、

「きゃっきゃっ」

と、かぐやは笑って答えてくれた。


 数日経つと、かぐやが俺の知っている普通の赤ん坊とは成長速度が違う事に気付く。ただ、それが不思議な事に怖いとは思わず、神秘的に感じて、俺はかぐやに惹かれていた。

「あ~う」

ぺたぺたとはいはいをしながら俺の後を付いて来るかぐやを抱き上げると、夕食の準備をする事にした。


 それから数日経つと言葉が話せるようになった。

「こおのごあん、な~い?」

話せると言ってもこんな感じでたどたどしいんだけど、

「今日のご飯はシチューだよ、かぐや」

「しつう!」

可愛いなと思ってかぐやの頭を撫でる。親バカってこうなるんだな、とちょっと実感した。


 更に数日経つと物心もきちんと芽生えたみたいで、疑問を抱いて俺に話しかけてくるようになった。

「これってなんて言うの?」

今日疑問に思って聞いてきたのはテレビだった。

「この中に人が入ってるの?」

入ってないよと答えると、

「この中に入ってる人はどうしてるの?」

どうやら信じられなかったみたいでもう一度聞いてきた。

「それは映像」

「えい…ぞう?」

色々なものに興味を持って質問をしてくるのは良いんだけど、それを説明しても更にかぐやの疑問を増やすだけで、それのやり取りだけで日が暮れそうだ。

 そう思って俺は途中から難しい説明を避ける事にした。何となくだけど、赤ん坊に犬の事をわんわんと説明するのはそういう事なのかな?と思った。今になって思い返すとその頃からだったと思う。夜にかぐやが窓から月を見上げていたのは。


 それから更に数日経つと難しい説明でもある程度ついてこれるようになった。

「大学ってどんなところ?」

どうやら俺が通う大学に興味を持ったらしい。

「とっても大きな学校だよ」

「私も大学に行ける?」

一緒に行きたいと言わんばかりに目をキラキラと輝かせている。

「行けるけど、その前にかぐやは義務教育を終わらせないとな」

何とかしてはぐらかそうと思ったけど、こんなはぐらかし方で良かったんだろうか、そもそもかぐやはもう小学校を卒業するくらいには育ってる。

「小学校と中学校を卒業すれば大学に行けるの?」

義務教育と言う言葉はもう理解してるんだな。と感心しながら、

「その前に高校って場所もあるからな?」

と、その先の話もして反応を見てみる事にした。

「高等学校、だっけ?そこも卒業しないといけないの?」

「その後に大学受験って言うのがあって、それに合格したら大学に行けるよ」

まあその前に高校受験があるんだけど、そこまでの説明はいいかと思った。

「…スゴい所に通ってるんだね」

そう言うとかぐやは俺を尊敬の眼差しで見始めた。そんな毎日のやり取りが、一人暮らしをしていた俺にはとても楽しく、これが俺の日常となっていた。ただ、夜になると必ずかぐやが寂しそうに月を見上げるのも日常だった。俺はなんで月を眺めるのか、かぐやに聞けずにいた。何となくだけど、それを聞いてしまうと、今ある日常が送れなくなる気がしていたからだ。


 それから何日か経った夜、かぐやは酷く申し訳なさそうな寂しそうな、言いたくなさそうな複雑な顔で話しかけてきた。それは俺が一番怖かった内容、聞きたくない内容だった。毎晩月を眺めていた理由、それはかぐやが月の人間で満月の夜に月から迎えが来るという。

 満月の夜って、俺はカレンダーで確認しようとする。頼むから、まだもう少しだけ、この日常を楽しませてくれ。と願ってカレンダーの方を向くと、

「…明日」

かぐやがその後にごめんなさいと言うかのように小さな声で言った。

…明日。

いつかは来ると思ってはいた突然の終わりを、俺は受け入れられなかった。


 そして、俺は受け入れられないまま満月の夜が来てしまった。かぐやの言っていた通りに月明かりと共に迎えの使者が来た。お別れなんだ。そう呆然と立ち尽くすしか出来なかった。そんな俺の横を静かに少しずつかぐやが通り過ぎていく。…行ってしまう。俺の、楽しかった日常が、遠くへ。

 そう思い、かぐやに手を伸ばそうとした時だった。

「…やっぱり、イヤ。…私、ここに居たい」

足を止めて肩を震わせるかぐやの姿があった。

「かぐや…」

「もっと一緒に居るの!もっと色々教えてもらうの!もっと、一緒に居て…一緒に、大学に…行くの…」

泣きじゃくりながら、かぐやが思いを口にする。俺も同じ気持ちだった。俺もずっと一緒に居たいと叫んで止めたかった。でもそれはきっと、かぐやの為にならないんだろうと思ってしまった。同じ気持ちだった。かぐやも俺も同じ思いで毎日過ごしていた。それが分かっただけで嬉しいと感じた俺が居た。だから、

「大丈夫、かぐや」

俺はそう言って後ろからかぐやを抱きしめる。

「また会えるよ」

そう笑って、きちんと見送る事にした。

かぐやはそのまま俺の手をぎゅっと握り締めて、泣くのを必死に堪えようとしていた。

「また…会える?」

「大丈夫。また会える」

「…一緒に、大学行ける?」

「うん、行けるよ」

「…約束…して?」

「うん、約束」

そこまで話すとかぐやはもう大丈夫。と俺の手から手を離したので、俺もかぐやから離れた。それからゆっくりと振り返ったかぐやは、

「また…ね?」

そう優しく微笑んで言うと、月明かりと共にかぐやは月へと帰っていった。残った静寂の中、今頃になって零れてくる涙を拭うと俺は月を見上げて、

「またな」

と一言だけ呟いた。


 それから数週間が経った。今でも帰ると聞こえてきたかぐやの声が頭から離れない。だけどあれは仕方なかったんだ。かぐやは月に帰らないといけない理由があった。じゃなければ月から迎えなんて来るはずがない。そう自分に言い聞かせながら、今日もレポートで帰りが遅くなった夜道を俯きながら歩いていると、

「…約束」

その声に俺は思わず足を止める。

「今度は、拾ってくれないんですか?」

俺は信じられずにゆっくりと振り返ると、かぐやを拾った電柱の影に一人の女性が立っていた。女性は優しく微笑むと、

「…ただいま」

その声は、姿は更に成長していたけれど、かぐやだと分かった。

「…おかえり」

嬉しくて…嬉しすぎて涙が零れそうになったから、思わず空を見上げると、綺麗な満月の姿が目に入った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 予想通りの展開で最後まで安心して読む事ができました。 ベタなストーリーも良いですね。
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