File1:reputed to be a genius(1)
作品に登場する人物・団体等の一切は、実在の人物・団体等とまったく関係のないフィクションです。
「……その時、大統領ルナンフェスが下した決断こそが、ジブラルタル盟約の基礎となり……」
教室に流れるのは、どんな名ヴァイオリニストでも奏でられない音楽のごとく、力強いアルト。
窓の外では、気のはやい蝶が、いまだ蕾の姿の花々の間を忙しなく飛び回っている。
この街にはめずらしく、今日は気温が高め。おまけに席は窓際ときている。
「……こりゃ、天国やなぁ……」
小さく呟き、周囲の目も気にすることなく巨大なあくびをやってのけ、長い手を窮屈そうに机の上で折りたたみ、その上に頭を乗せようとして、
「では次、シオン、ここを読んで……な、何をやっとるか、シオン・ヒラノ!!」
「あだっ!」
平野紫苑は、その頭に見事に先生のゲンコツを食らった。
「まったく、お前と言うヤツは……」
歴史の担当教員は、禿あがった頭まで赤く染めながら、くどくどと文句を並べ立て始める。
「もう卒業試験を控えていると言うのに、いったい何を考えておるのだ! いつもいつも授業を聞かず居眠りばかり! そのくせ成績はトップクラスとは……」
「せんせー異議あり!」
緩慢な動作で立ち上がると、シオンは大げさに手を振り上げた。
「俺が眠くなったんは、クランのせいでーす!」
「俺かよ!」
先程まで美しい声で教科書を読み上げていた親友を指差し、シオンはニヤリと笑う。
「クランがあんまりええ声で教科書読むから、眠くなってしもたんでーす」
いつも通り、妙な なまり のある英語でしれっと恥ずかしいことを言い放つ居眠り常習犯に、先生は思わずあっけにとられてしまう。
「バカかよお前……」
クランが呆れ声をあげながら、その美貌を掌に埋めた。
「しかもせんせー、こいつも卑怯やねん!」
そんな周りの様子など一切お構いなしに、シオンは自分の後ろの席で寝息を立てるもう一人の親友を指差す。
「こいつチビだからって、でかい俺の後ろに隠れていっつも寝とるん、ほんま腹たつわぁ!」
「な……アルフ! お前と言うやつは……」
しかし、先生がアルフの柔らかな金髪に拳をお見舞いする直前、授業終了のチャイムが盛大に鳴り響いた。
「ふあーあー……ん? もう終わりですかぁ?」
目をこすりながら上半身を起こす小柄な少年の暢気な声に、先生は禿頭を抱えた。
…to be continued