1話 開幕
今日は一日中大雨が続いており道はぬかるんで歩きづらいく昼間でも視界は悪いわでこんな天気の日に山に登ろうとする人はそう多くなかった。
そんな悪天候の夜に山の中腹あたり二人の人間が歩いていた、二人とも竹でできた笠に藁でできた蓑を着けその下には僧が着る袈裟を着ている。
先頭を歩いている人の首に数珠を提げ右手に錫杖を持っていた、後ろも同様に錫杖を持ち左手に鈴を掲げ チリーン と澄んだ音を鳴らせていた。
彼等が歩いている道の先に朽ち果てた神社があった。その社から蝋燭の灯りが漏れていて誰かが居るようだ。
鳥居を潜り社の入り口まで近づき先頭に立っていた僧が中に居る者に呼びかけた。
「すまない、誰か居ないだろうか?」
声からしてまだ若い男のようだった。呼びかけに反応して中から複数の話し声が聞こえてきた。
「ふぁ?ヒック、だれだぁ~?こんな夜によぉ~お前見に行けよヒック」
「は?なんで俺が」
「今日お前まったく動か無かったじゃねか、ほとんど俺らにやらせやがってよ」
「はい、はいわかったよ」
中から出てきた人は、40後半ぐらいの男で無精ヒゲを生やし髪は乱れ薄汚れた布を纏って手に刀を持ち酔った状態で出てきた。
「連れが怪我をしてしまって休めてやりたいんだ、今晩ここに泊めて貰えないか?」
「あ?んな事は知らねぇよ。今盛り上がっているところに水を差すんじゃね、何所かに失せろ」
脅すように男の僧を睨んで隣にも視線を向けこっちも男だと思い込んでいたら、胸の辺りが着物の上からでも分かるぐらいに膨らんでいて顔は笠で隠れていてよく分からなかったが、口の辺りが見えていて一般の男よりも小さく肌も綺麗だった。
連れが女だと分かって男は驚いたが、徐々に口の端を歪め態度が変わった。
「と、思ったが気が変わった。良いだろ一晩泊めてやるよへへへ」
「本当ですか、それはありがたい」
男が社内に二人を招きいれた。中には6人の男達が酒を飲みあって居て、この男達も薄汚れた布を纏っていて腰の横には刀が置いてあり彼等の周りには蓋の開いた箱から高価そうな布が出ていたり酒ダルや食べ物が大量に置いてあった。
どうやらここは盗賊の隠れ家だったようだ。
「おい、お前ら客人だが来たぞ」
招き入れた男が酒を飲んでいる男達に呼びかけると6人の視線が僧に向けられた。特に蝋燭の灯に照らされた女の僧に視線が行き彼等は全員愉快そうな顔に変わって、横に置いてある刀を手に取り僧を囲い始めた。
そんな中、女僧が男僧に小声で嬉しそうに話し掛けてきた。
「すごいよここ!大当たりだよ白!!」
「噂は本当だったな。後そんな呼び方をするな、俺は白――」
「へへ、お前等こんな所に何しに来たんだ?」
男僧が言い終わる前に盗賊の一人が話しかけてきた。
「いや大した事じゃない、この山に悪霊が住み着き人々から物を盗む噂を聞いてその物を譲ってもらいに来た。ついでにその悪霊も退治してやろうと思ったんだ。そんな事より少し食べ物を分けてくれないか?朝から何も食って無いんだ。この金と交換してくれないか?」
懐かか金の入った小袋を取り出し、中を見せた。中身を見た賊は目を丸くして笑い声を零した。
「ははは!馬鹿かお前、タダで手に入るものをわざわざ取引して手に入れるかよ!!後その女も頂いてゆっくり楽しませてもらうぜ!」
盗賊の男が手に持った刀を鞘から引き抜いたのを合図に周りの賊達も刀を抜き始めた。
男僧の手から小袋が滑り落ちて中から金が床に零れ落ち チリーン と澄んだ音で鳴り響かせた、その途端燭台の蝋燭の灯が一斉に消え室内は一瞬で闇に包まれた。
「な、なんだ!?」
「何も見えねぞ!誰か灯を点けろ!!」
「痛っ、誰だ足を踏んだ野郎は!」
突如視界が塞がれて慌てふためいていると、足下から数箇所灯が点った。が、普段の温かみのある赤い色ではなく寒気がするような冷えた青い火の玉が浮かんでいた。
賊の一人が腰を低くし、火の玉が何なのか確かめるため見ていると、火の玉から呻き声と共に靄が薄く浮かび上がってきた。靄の形が次第にはっきりと分かるようになった。
「ひぃッ!?」
火の玉を見ていた賊が突如ノドを詰らせたような声を上げて腰を抜かしていた。他の6人も原因がすぐに分かり歯や脚を震わせていた。
青い火の玉から人が現れた。その人達は皆目の中は闇が広がり皮膚は乾燥し肉は無く骨が出ていた。
「ゆ、幽霊だぁぁぁッ!」
「助けてくれ!!」
幽霊を見た瞬間賊達は慌てて社から外に出ようと中には腰を抜かして床を這う者もいて逃げ出してた。
「あははは!白見てみて、あいつ等慌てて転んでるよ」
女僧が眼に涙を溜め腹を抱えて笑い男僧も賊が逃げるのを確認し、腕を前に掲げ中指と親指を合わせて指を鳴らすと幽霊が一斉に木の葉に変わってしまった。
「いつまで笑っている。日が昇る前に早く荷を運び出すぞ羅刹」
羅刹と呼ばれた女は必死に笑いを堪えて男の方に振り返った。
「はーい、早く帰らないとバレちゃうしね」
二人が荷を集め持ち去る準備をしていた頃に、賊が逃げ去ったところからさっきの賊の悲鳴が響いてきた。