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極彩色な男の娘(こ)

 子守り広場の問題が解決した夜。ちびティラノさん達と合流して、またも大騒ぎになった。


「きゃーっ」

「おうは、すごいのーっ」

「あんしんーっ」


「おうおうおう! ほんっとうに、すっげぇ!」


「広場が使えるようになって、よかったですね」


「おう! おうはやっぱりすげぇ!」


 もう、それいいですから。


 お酒も無しに、ここまでハイになれるのも、うらやま、おほん、素晴らしい。


「子守り広場にあった色石は、本当に捨てていいんですね?」


「ああん? もう捨てたんだろぅ?」


「・・・要るなら、また拾ってきますけど」


「要らねぇ!」


 やっぱり、相当痛かったのだろう。見たくもないとは。ティラノさんの目に届くところには置かない方が良さそうだ。このまま、貰っていこう。

 ・・・暇なときに、研磨してみるか。




 翌朝、また海岸に出てきた。昼も過ぎた頃、ティラノさんが足を止める。


「おう! こっからが、あっちに一番近いぜぇ」


「ありがとうございます」


 確かに、港都から西大陸を見た時よりも近い。


「別れるのはさみしいがよぅ? おうは、おうの縄張りに居るのが一番だぁ」


「また、見回りに励むんですか?」


「俺の縄張りを俺が見回らなくてどうするんでぃ!」


 鼻息も荒く、断言する。


「アハハハ。そうですよねぇ」


「ねえ。おうは、どうやっていくの?」

「およぐの?」

「はしってくの?」


 ・・・さすがに水面を走っていくのは無理だと思う。


 船を造っても、海流に流されるだろうから、最短距離に居るメリットがない。


 うーん。ちょいと、恥ずかしいが。


 ぽん。


「えええええええっ!」


「おうは?」

「・・・きれー」

「きらきらぁ」


「驚いていただけて、恐縮です」


 長い首を折って、わざとらしく、お辞儀をしてみる。


「おおぅ・・・。すげぇなぁ。かっこいいぜぇ」


 いやぁ、それほどでも。


「おう? おうなの?」


 ちびティラノさんの一頭が、わたしのしっぽの先にかじりついた。こらこら。本物かどうか確かめるにしても、それはないでしょ。


「おうおうおう! なにしてるんだぁ?」


 ティラノさんが、ちびさんの頭を押さえつけた。口を開けた隙に、そっとしっぽを引き抜く。


「ご、ごめんなさぁい」


「おう。ありがとうなぁ。気を付けてなぁ」


 ティラノさんが、挨拶してくれた。


「みなさんも、お元気で」


 出発!




 無人島で、飛ぶ練習をした。脱皮するごとに、高度も速度も少しずつ高く速くなった。しかし、島が見える範囲でしか飛んでいない。長時間飛んでいた事がないのだ。持久力に不安が残る。

 ・・・落ちたら、船を造ればいいか。


 対岸をめざして飛ぶ。

 はて、今は、どれくらいのスピードが出ているんだろうか? 比較対象も速度計もないから、見当がつかない。




 後少しで、沿岸に着く。なんとか、体力持ちそう。


 森の上がにぎやかだ。カラフルな生き物が、乱舞している。


 と思ったら。


 わたしに向かって飛んできた。それも、団体さんで、怒号を上げ、ヤル気満々の勢いで突進してくる。牙を剥き出している。猛烈な火の玉のプレゼントも来る。迫ってくる。


 わたしは、目一杯速度を落として、敵対する意志がない事を示した。つもりだったが、効果無し。取り囲まれそうになる。


 だから! ケンカする気はありませーん!


 逃げの一手だ。


 高度を上げる。ワイバーンなら、ここで脱落するけど、・・・だめだ。まだ、追尾してくる。更に上昇!

 

 そろそろ、わたしもきついんですけどーっ


 最後に残った四枚羽のグリフォンが、猛スピードで追いかけてくる。今更だけど、ここ、南天だったのね。


 キエェェェェッ!


 甲高い声で、威嚇してくる。


 うわあ、すみません。すぐ出て行きますから!


 げっ! 雷の矢が飛んできた。


 体を捻って躱す。


 今度は、連発。風の矢も混じっている。やだよ。当たりたくないよ。


 急反転し、グリフォンの後ろに回る。グリフォンも反転した所で、その上空に舞い上がり、行方をくらました。はずなのに。


 げふっ。


 お腹に、頭突きを食らった。


 噛み付かれてないだけましだ。体を捻って、二度目の頭突きから逃げる。


 キョオォォォォォッ!


 更に怒りを込めた怒号が浴びせかけられる。ひええええっ


 逃避行、もとい、逃「飛」行が始まった。


 [魔天]方向に猛ダッシュを掛ける。重力魔術で体重を減らし、風魔術で右に左に旋回し、ときには火魔術によるアフターバーナーもどきで加速する。

 が、空戦術は、グリフォンの方が上だった。どうやっても、南天上空から逃げ出せない。

 なんでだーっ。追い出しに掛かってるんじゃなかったの?


 ついでに、おなかがすいた。もう、夕方だよ。


 気が緩んだ瞬間に、上を取られる。しかたない。森に潜んでやり過ごそう。


 森の外れめがけて直滑降する。森の上で旋回待機していた魔獣達も躱し、森の中へ。

 着地寸前で変身! 体重低減は実行中。エアクッションを使って急ブレーキ。


 あ。間に合わない。


 ずぽ。


 ・・・腰まで埋まった。すぐに抜け出せそうにない。見つからないよう、『隠鬼』を実行する。一晩もすれば、諦めてくれ、ないかなぁ。


 この埋まり具合では、そおっと体を引き抜くのも、難しい。シャベルやスコップは作ってないし。魔術を使えば、居場所がばれる。『魔力隠蔽』も掛けたい所だけど、術具無しでの二重結界は、まだ出来ない。手で掘るしかないか。


 ちまちまと、地面を掻く。おなかすいた。まだ、これだけしか掘れてない。術具じゃないから、寝てしまえば居場所がばれる。でも、おなかすいた〜。


 小休止することにした。何かに集中すれば、空腹も眠気も紛らわせるだろう。

 ティラノさんから貰った原石を一個取り出す。魔力を感じる。魔包石? これに、いきなり直接術式を書き込む、のは怖いな。でも、術具の材料にできる砂は残り少ないし、固める時に魔力が漏れるし。


 そうだ。首長竜の骨があった。


 一番小さな歯を取り出し、『隠鬼』の術式を一瞬で書き込む。術式に乱れはない。すぐさま、術具からの結界に切り替える。発動も出来た。

 ・・・、見つからなかったようだ。もう一つ、『重防陣』も作って実行。これで一安心。襲われる心配もなくなった。では、ちょっとだけ。


 おやすみなさい。ぐぅ。




 どごん!


 わぁっ!


 結界に体当たりする音で、目が覚めた。


 昨日のグリフォンさんだった。たてがみを逆立てて、何度も体当たりする。中身は見えてないはずだけど、結界の存在は、其処に立ち入れなければ丸わかり、だよねぇ。


 まだ、埋まったままだし。この状態で結界を解除したら、ご飯にされてしまう。

 『魔力隠蔽』を掛けた上で、鉄のインゴットを取り出し、シャベルを作る。土魔術も使って、掘って掘って掘って。


 ようやく出られた。


 次は腹ごしらえ。

 ・・・その前に、匂い消しの結界を作っておこう。結界の外からは見えないし入れないとしても、肉食性の魔獣の前で肉の匂いをさせるのは、更に相手を刺激しそうで、とても怖い。


 新しい術式、『爽海そうかい』を実行する。

 フライパンで肉を焼く。軽く塩をふって食べる。また焼く。食べる。魚も出す。焼いて食べる。食べる。食べる。


 ふう。満腹〜。


「ちょっと! いつまでだんまりを決め込んでるのよ、この脳筋一族! あれほど、ここには来ないでって言ったでしょーっ!」


 またも吃驚。食べる事に夢中で、全然気がついていなかった。言葉遣いは女性のものなのだが、声が・・・。


「なんでアタシの爪で壊れないのよこのこのこのーっ」


 重低音の男性の声。


 ばりばりと結界に太い爪をたてる様と相まって、二重の衝撃。


「火炎も風刃も雷も効かないなんてっ。脳筋のくせに生意気生意気生意気ーっ」


 狂乱するグリフォンさんを、ただ、呆然と見ていた。


「ふーっ。ふーっ。うふふふ。いいわぁ。とっておきをみせてあげるかーらっ!」


 だっぱん。


「っきゃーーーーーーっ」


 グリフォンさんは、取り巻きと共に、大量の水に飲み込まれて流されていきましたとさ。めでたし、めでたし。


「・・・なんだったんだろう」


 西大陸から飛んできたわたしを、西天王の配下と思って追いかけ回していた、のかな?


 この格好なら、見つかってもいきなり襲われることはない、・・・とは言えない。だって、今、人の子供だし。間違いなく、朝ご飯扱いされるだろう。


 追っ手が離れた今のうちだ。結界を解除して、とんずら!


「まっちなさーい! 逃がさないんだから。おしおきおしおきおしおきーっ!」


 ひえええええっ


 まだ、体が小さい所為か、以前ほどの速力が出ない。さっきの水撒きの所為で、ぬかるんでいるので、足下も滑る。

 あっというまに、追いつかれた。


「みーつーけーたーっ!」


 昨日と格好が違うでしょーっ。と言っても、聞いてくれそうにない。


 飛びかかってきたグリフォンさんの爪をかいくぐり、そっとその手を取って。


「え? っつきゃーーーーーっ」


 投げた。


 こんな所で、師匠との修行が役に立つとは。なんかくやしい。


「ちょっと! なにすんのよーっ」


 泥まみれになったグリフォンさんが、跳ね起きたとたんに、食って掛かってきた。


「襲われたから、反撃しただけですっ」


「生意気すぎるわよっ」


「知りません!」


 今度は、地上戦が始まった。


 接近されれば投げ飛ばし、魔術が放たれれば、まな板で防御。そこ、なんで! とは言わない。他にいいものがなかったの!


 四枚羽のグリフォンさんは、今まで見た中で一番大きかった。基本オレンジ色の毛や羽のなかに、光沢のある赤や黄色が調和よく混ざっている。

 でも、夕方まで戦い続けている間に、全身泥まみれになって、よくわからない状態になった。

 もちろん、わたしも泥まみれ。っぺ。口の中にも入ってくる。


「し、ぶとい、わ、ねぇ!」


「だーからー、人違いだって、言ってるのに!」


「あっち、から、飛んで、きておいて、よく言うわ!」


「迷子だったって、何遍、言わせるんですかっ」


「問・答・無・用!」


 このグリフォンさんは〜。師匠並みに、理不尽ときた。


 仕方ない。


 取り巻き、もとい野次馬から見えないよう、わたしとグリフォンさんだけ、昨日作った『隠鬼』と『重防陣』で包み込む。


「えっ?」


 一瞬、動きの止まったグリフォンさんの後頭部に飛び上がり、延髄に蹴りを入れた。


「あぁん!」


 みょーに色っぽい声を上げて、グリフォンさんが気絶した。やれやれ。


 一葉かずはさん、双葉ふたばさん、三葉みわさんと四葉しばさんに頼んで、翼と、前足、後ろ足をそれぞれ拘束してもらう。


 取り巻きさん達が結界に驚いているうちに、『重防陣』と『隠鬼』、『魔力隠蔽』も兼ね備えた術具を作る。術式の構築にちょっと手間取ったけど、なんとかできた。『楽園』とでも名付けよう。素早く、切り替える。これで、取り巻きさん達は、手出しできない。


 今朝、あれだけ食べたにもかかわらず、もうお腹がすいた。ティラノさんの所では、果物だけで十分だったのに。

 かといって、また焼くだけってのも芸がない。何かないか、結界の中を見回す。


 運がいい。ショウガもどきを見つけた。お、山芋もある。こっちの葉っぱも食べられそうだ。

 バケツを取り出し、水を張って、泥を落とす。水を換えて、自分の手や顔も洗う。どちらも、一回では綺麗に出来なかった。ここの泥は、少々しつこい。

 

 気を取り直して。


 首長竜の肉を薄くスライスし、ショウガもどきの絞り汁と魚醤で味付けする。残りの肉はミンチにして、やはりショウガと魚醤で味付けする。胴鍋に水を張り、切った山芋を入れて加熱。沸騰したら、肉団子を入れて更に煮る。同時に、フライパンでスライス肉を焼く。肉団子が煮えたら、塩で味付けし、刻んだ葉を加え、もう一煮立ちさせて火を止める。


「あ、あら? いい匂いがするわ〜。って、ちょっと、これ、なんなのよ!」


「もう、目が覚めちゃったんですか」


 顔も向けずに、焼き上がった肉を食べ始める。だって、お腹がすいてるんだってば。石の器に団子スープをついで、これも食べる。うん。おいしい。


「ねえ。アタシにも食べさせてくれてもいいでしょ?」


 猫なで声で、ねだってくる。声だけなら、渋いバリトン。惜しい。


「話も聞かずに襲ってくる相手に、ただ飯差し出すほどお人好しではありませーん」


「けちぃ!」


「ケチで結構!」


 ばくばくと食べ続ける。もう少し、ショウガを効かせても良かったなー。


 グリフォンさんは、じたばたともがき続ける。でも、動けない。一葉さん達、いい仕事してるなー。


 山盛りの焼き肉と鍋一杯のスープを、一人で平らげた。


「ああん。アタシが悪かったからーっ。お願い、一口、食べさせてよ。ね? いい子だから」


「わたし、子供だから、わかりませーん」


「謝ってるじゃないのよーっ」


 よく見れば、グリフォンさんは、涙目によだれも加わって、ひどい形相になっている。


 最後の焼き肉の一切れを、ぷらぷらとぶら下げる。


「質問に、答えてもらえますか?」


「何でも言って頂戴!」


 どっかの食欲大王様を思い出す。


「なんで、西天王さんの所のひとを嫌っているんですか?」


「う」


「冷めちゃうと、味が落ちるんですよねー」


「判ったから! 言うわよ。

 今の西天王に代替わりしたとき、挨拶に行ってあげたのよ。そうしたら「見かけ倒しに用はねぇ!」って、いきなりよ? 頭に来るじゃない。一緒に連れて行った子達も、散々けなされたし。それで、「こっちこそ、脳足りんの筋肉馬鹿は大っ嫌い!」って返答してあげたわ。それ以来、よ」


 あー。西大陸にいた恐竜さん達は、どちらかといえば地味な色彩だった。始祖鳥みたいな羽持ちの小型恐竜さんは、もうすこしにぎやかな色をしていたっけ。でも、このグリフォンさんには到底及ばない。


 ティラノさんなら、「ずいぶん派手だなぁ。目立ちすぎて困らねぇかぁ」とか言いそうな気がする。・・・どう聞いたら、そういう解釈になるんだろう。


「それだけですか?」


「十分でしょ! アタシ達に取って、美しさは健康と力の象徴なんだから」


 お互いの見解の相違? なんだかなぁ。


「もう一つ。なんで、わたしを追いかけ回したんですか?」


「え? ちゃんと答えたでしょ? 食べさせてくれないの?!」


「誰が、質問は一つだけと言いましたか?」


 ぶわっ


 グリフォンさんは、本格的に泣き出した。


「ひどい。ひどいわ。嘘つきーっ」


 やっぱり、食欲大王様二号だ。

 あれ〜? もっと、他の娘も活躍するはずだったのに。グリフォンさんの独擅場になってしまった。


 #######


 無人島では、ドラゴンの手や魔術を使って住処を作った。お手洗いも、文字通りの手掘り。金属を精製した時は、手頃な石を分解精製しただけ。

 なので、スコップなどの土を掘る道具は作っていなかった。

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