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干されたどろまみれになった服をみながら、ぼくはわずかな快感をおぼえる。

世の中に、あんなたのしいことがあったなんて知らなかったから。

みどりがぼくを呼ぶ声がよみがえってくるようで、ぼくはその服から目を離せない。

「しろ」

「しろ」

気付くと扉の前に母がいた。

髪の毛なんてぼさぼさで、化粧っけもまるでなくて、その姿は前までの母と同一人物だとは思えない。

ぼくは母をみて、きょうの朝言われたことを思いだす。

なかなか話をきりださない母にぼくはしびれをきらした。

「…母さんはかわったね」

「しろ…?」

「むかしの母さんはそんなんじゃなかった」

こんなこと、母を傷つけるようなことは言うつもりなんてなかったのに、ことばが堰をきってあふれでる。とめられない。

「しろ…母さん…どうすればいいの?」

母は一瞬にして床につっぷして泣きくずれた。

こんなに弱い母を、見たくなかった。

ぼくたちが過ごしてきた時を裏切られるような気がしたから。

「そんなの、しらない。母さんがかんがえなよ」

「…しろ……」

涙をぬぐって、さみしげに母は扉を閉めた。

静かな部屋のなかでまた自己嫌悪。

やさしいことばをかけてあげようと思った。でもできなかった。

母を責めることしかできない自分

母と父をどうしようもできない自分。

ぜんぶがぜんぶ、ぼくで、ぜんぶに激しい嫌悪感をおぼえた。

「…ごめんなさい」

もう母には聞こえないとわかっていても、つぶやいてしまった。

それがいまのぼくにできるせめてもの償いだった。

いつのまにかぼくのひとみからも、冷たい雨のようなしずくが流れていた。

もう、ほんとうにどうすることもできないのだろうか。

否、答えがわかっても、いまのぼくじゃそれはできない。

なぜかそんな気がした。






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