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みどりはふうん、と言って傘をてのひらでくるくるとまわす。

水玉がいっしょにまわる。

「みどりはどうして雨がすきなんだい」

「しらなあい」

傘はまだくるくるとまわっている。

「あのひととね、あったときもあめだったの」

「あのひと?」

ぼくが聞きかえすとみどりはうん、とうなずく。

「うん。あのときケンカしてた、ひときくん」

ああ、彼氏か。とぼくは心の中でうなずいた。

時おり消えゆきそうなみどりの声が、雨で掻き消されてしまうのではないか、と心配になる。

「あめのなか、いぬとあそんでたの。それをあたしはじっとみてた」

「それって、ノロケ?」

「わかんない」

「なにそれ」

「うん、わかんない」

みどりは自分で言って、自分で勝手になっとくしている。

「けんかのあと、あったの?」

ぼくがきくとみどりは表情もかえずに、首を横にふった。

「なんだか、こわくて」

「すきなんじゃないの」

「すきよ」

すきよ、といいつつみどりの表情には変化がないから、あまりよくわからない。

それからみどりはひとつ、おおきく深呼吸をする。

「しろちゃん」

「ん」

「あいってなに」

「それ、きのうも聞かれた」

「だってわかんないんだもん」

「あっそう」

ぼくはそういってすこしだけ笑った。

みどりもつられてきゃらきゃらと笑う。

「あめはすきよ」

「なにいきなり」

ぼくの答えにみどりはまゆをしかめた。

水玉の傘と、黒色の傘が並んでいた。

「しろちゃんのばーか」

みどりはそういって泥をすくい、ぼくにかけた。

さっとよけようとしたけれどすべって、ぼくはお尻から転倒する。

ゆっくりと冷たい水がお尻にやってきて、じんわりとした痛みがひろがる。

「あは」

「やったな」

仕返しにぼくも泥をすくってみどりに投げた。

するとみどりはぼくをきっとにらんで、またやり返す。

もう、雨に濡れるのも、泥にまみれるのもいとわなかった。

むしろそれはなによりも清々しかった。

すこしだけ、雨がすきになれたような気がした。







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