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めざめたら、もう朝だった。
下には汗でしめったふとんがあって、上にはちゃんと屋根もついていた。
「…きのう…どうやってかえったっけ」
しばらく考えたけれど、こたえがでなかったので、やめた。
もぞもぞとおきあがると、時計のはりは朝5時をさししめしていた。
外からぽつりぽつりと雨のおとがする。
「しろ、おきなさい」
とびらが開いた音がした、と思ったら母の声がきこえる。
もうひとねむりしたかったが、となりのへやからめだまやきのにおいがして、いやでも胃が反応した。
欲求にさからうことも面倒くさくて、おおきく伸びをしてからぼくはふとんから出ていった。
「おはよう」
リビングでいそいそとはたらく母に声をかけると、母もおはよう、と言った。
が、母の視線はぼくには向かなかった。
「ごはん、できてるから」
消えゆきそうな声で母がぽつりとつぶやく。
テーブルのうえに目をやると、そこには焼きあがっためだまやきと、白い湯気をたてるごはんがあった。
ゆっくりと席について、いただきますも言わずに食べはじめるが、母は何も言わなかった。
部屋をみわたして見ると、やっぱり今日も父はいない。
「とうさんは」
ぼくが聞くと、母は一瞬びくっとからだを震わせた。
「…おとうさんね…ほかのおんなのひとのところにいるの」
「また?」
「…ええ…」
会話はこれで終わった。
父が浮気をするのはもうめずらしくなくなったことだから、ぼくは別におどろかなかった。
めだまやきの黄身をおおう膜にはしをつきさすと、とろりとした黄身がでてくる。
ほおばるとかすかに甘い味がした。
あまったるくて、だけどしょっぱかった。
「しろ、おかあさんとおとうさん、どっちにつくの」
「え」
「りこん、するかも」
「え」
覚悟していたことだが、いざするとなるとぼくはとまどった。
母の表情を盗み見ようとしたが、下をむいていてわからない。
「わかんない」
あいまいな返事をすると、母は「そう」とだけ言って皿を洗いだした。
もうひとくちほおばっためだまやきのしょっぱさがました気がした。