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みどりの本名は朝岡みどり、というらしい。

ぼくがきいてもないのに勝手に話してきた。

22歳のOLで、ヒョウ柄がすきだということも、血液型はO型だということも、誕生日がクリスマスイヴだということも、うれしそうにきゃらきゃらと勝手にはなしてきた。

その姿はいままで恋人とケンカをして、泣いていた人物とはとてもおなじには見えなかった。

「しろちゃあん」

いまみどりは水道の水を使ってこどもといっしょにはしゃいでいる。

ぼくはそれをベンチからずうっと見ていた。

あれじゃ、どっちがこどもなのかわからない。






やがて遊びつかれたらしいみどりは、こっちへきてまたぼくのとなりに座った。

「こどもみたいだ」

「あは」

「うん、ほんとにこどもだ」

「ひょうがら、すきなのに」

「ませたへんなこどもなんだよ、みどりは」

「あは」

みどりはへんな笑い声をあげて、すっくと立ちあがった。

「あ、いちばんぼし」

か細い腕で、いちばんぼしをさす。

その姿はやっぱりこどもで、22歳なんて信じられなかった。

いちばんぼしは少しくらくなった空で、誇らしげにかがやいていた。



「ね、しろちゃん」

もう空がすっかり暗くなったのに、ぼくたちはまだベンチに座っていた。

公園にはもうぼくたち以外、人かげはなかった。

ぼくは「ん」とだけこたえて、まっくらな空をみている。

「あいってなあに」

「しらん」

いきなりそんなことをきかれても困る。

「あたしはしってる」

「あっそう」

「うん」

こどものくせに、と言おうとしたがみどりの声は真剣だったから、言えなかった。

月のひかりがやさしくぼくたちを照らす。

「きかないの?」

「なにが」

「きょう、あたしがけんかしてたわけ」

「うん」

「そう」

べつに、そんなことどうでもよかった。

気になっていない、といえばうそだが、みどりのことだから、いつかきまぐれにはなしてくれるだろう。

そこまで思ったところで、ぼくとみどりはきょう初対面だったことを思いだして苦笑した。

ぼくがみどりにいだく感情は、まるで幼いころから見知ったひとにいだく感情のようだったからだ。

「あしたもくるの?」

「わからない」

「ん、ろくじにいるかも」

みどりはそう言って、さよならもいわずに走っていった。

みどりがどんどん闇夜にすいこまれていくようで、すこしだけ恐くなった。



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