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いとしい、と、いとおしいの意味はちがうようだ。
ならば、ぼくがみどりに擁く想いはきっと、いとしいだろう。
痛いいたいと嘆いても、そこにはどこかいとしさがあるのだろう。
目を開くと緑色のはっぱがぼくを覆うように広がっていた。
葉と葉のあいだからこぼれおちるひかりが、ぼくをくすぐる。
学校の屋上にはえた巨木の下で、ぼくたちは昼寝をまったりと楽しんでいた。
「しろ」
となりでも逢坂が寝転んでいる。
逢坂はもうすっかりうつらうつらしている、と思っていたぼくはすこしだけおどろいた。
「きもちいーな」
「そだね」
「いま、なんじ」
「しらない」
「おくれたらどーするんだよ」
「しらない」
「まーいーや」
「うん」
逢坂は寝返りをうって、ぼくに背を向けた。
「あ、鐘」
でっかい鈴をならしたような、長いか行の音がきこえてきて、げんきに遊んでいた生徒たちはみんなあわてて教室へはいっていくのが見える。
ここからみると、みんな蟻のように小さい。
「さぼる」
「ん」
「おまえは?」
「それでいい」
逢坂と意気投合して、ぼくはまたうつらうつらとすることにした。
ここならきっと、先生たちにもみつからないだろうし、ゆっくりと休憩できるはずだ。
こんなめまぐるしい学校生活のなかで、休みは必要なのだ。
ぼくはそう思って、にしし、とガラになく下品な笑みをうかべて、夢の世界へと足を踏み入れた。
さいごの夢にでてくるのはきっと、みどりだろう。
ぼくはなんとなく、そうかんじた。




