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そんなときだった。
ぼくの耳にカップルの口論が耳に入ったのは。
カップルはまるでドラマかまんがみたいに、ぎゃあぎゃあとケンカしていた。
「ひときがわるいのお」
「みどりこそ!いつだってそうじゃないか!」
「もういやあ」
「ないてごまかすなよ!」
男のほうのすがたはよく見えないが、女のほうは20歳くらいだろうか?
黒いながめのスカートに、ヒョウ柄のTシャツを着ていた。
なんともふしぎな格好だったが、女は手で顔をおさえている。
どうやら泣いているらしい。
が、男はそれにかまうことなく女をどんどん責めたてる。
まわりで遊んでいた子供たちもぽかん、とカップルをながめている。
こういうことには関わらないほうがいいとおもったぼくは、下をむいていた。
蟻ももうそこにはいなかった。
のんびりとした公園のなかでカップルだけの声が響きわたる。
しかしそれも男があきれて、捨てゼリフっぽいのを吐いて去ったことで終わった。
去っていく男を引きとめようともせずに、ヒョウ柄の女は泣きくずれていた。
女の体が小刻みにうごく。
おとなって…あんなに泣くもんなのか?と必然的に疑問もうまれるくらい、女は泣きつづけた。
もうだれも女を見てはいない。
こどもも、おとなも、みんな女なんて見えていないかのように振舞う。
その女の姿は、なぜかぼくとかぶってみえた。
「…おいかければいいのに」
ぼくがぽつりとつぶやいた時、女はすっくと立ちあがった。
まるでぼくの声が聞こえたかのように、ぼくのほうへずかずかと歩いてくるのだ。
さすがのぼくもじぶんの声がきこえたのではないかと焦った。