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ああ、もうすぐ梅雨があける。
きょうの空が、急に暗くなったりしたのをみた先生がそうつぶやいた。
えんぴつを進める音だけがきこえる教室には、その声はよく響く。
そしてぼくも、それをつよく痛感していた。
ふととなりをみると、女子がぼんやりと空をながめている。
虚ろとはいえないけれど、こころなしかそれはすこしかなしそうだった。
逢坂はというと、机につっぷして、安らかな寝息をたてている。
ぼくはそれに思わず苦笑してしまった。
なにごともない、ありふれた景色。
だけど今のぼくには、それすらもきらきらと輝いて見えた。
今日は、公園にいけるだろうか。
どうせもうみどりが離れていってしまうのなら、残された時間をたいせつにつかいたい。
せめて、この想いにきづいた今、ぼくののぞみはそれだけだった。
そこまで考えて、病んでるな、とさすがにぼくは苦笑した。
授業がおわって、逢坂がぼくの席にてくてくとやってきた。
授業中とはうってかわって、生き生きとした逢坂がおもしろかった。
「なかなおり、したんだよな?おれたち」
「うん」
「じゃ、なかなおり記念ってことで」
逢坂は紙パックにいれられた牛乳をぼくの机においた。
なかなおりすると、どちらかが牛乳をおごるのだ。
それがいつのまにか、昔からのぼくたちの習慣になっていた。
ぼくはそれをまじまじとみつめて、けけけと笑う。
すると逢坂もにやりと不敵に笑って、ぼくの左手を叩いた。
ぱしんとした、いい音が教室中に響いた。