19
寝るまえにはもう熱はさがっていた。
母はそれをみて、ひとまず胸をなでおろしたようだった。
「かあさん」
母をよぶと、彼女は内職のうでをとめてこちらをむく。
母のかみのけにはいつのまにか、白いものまで混ざっていた。
「…ありがとう」
「なにいってるの。親が、こどものめんどうみるのはあたりまえでしょ」
くすくす笑ってから、母はまた内職へと視線をもどす。
「…とおさんと…どうするの」
母の内職の手がぴたりととまった。
聞きたくはなかったけれど、いつかは解決しなければいけないことだ。
ぼくはどきどきと脈打つ心臓を落ち着かせたくて、おおきく息をすいこんだ。
母もおなじようで、肩が上下にひとつ、揺れた。
「わからない…でも、もうだめなのよ」
母がそういうということは、もうきっとほんとうにだめなのだろう。
今まで築き上げてきた家族、というものをかんたんに壊せるくらい、父と母の確執は深かったのだ。
でも、もう仕方がない。
母も、ぼくも、もう十分に苦しんだ。
「そう、しかたないんじゃない」
母の表情はみえなかったけれど、きっとぼくたち、すごくかなしかった。
彼女の背中は、小刻みに揺れていた。
父の愛をつなぎとめれなかったこと。
おおきな問題を前にしてもなにもできない無力さ。
すべてが、すごくすごくかなしかった。
せめて、しあわせな家庭でありたかった。
でも、もうきっとぼくたちはばらばらになる。
遅かれ早かれ、それはきっと必然だった気がする。
ぼくたちがすこしだけ、早かっただけなのだ。
おわりは、あまりにあっけないものだった。