17
朝になっても熱は冷めなかった。
意識は朦朧としていて、起き上がることもできない。
「はい、39度8分ね」
母がそういってつかい終わった体温計をケースにていねいにしまう。
さっき雑炊を食べたので空腹は感じなかった。
「がっこう、やすみのれんらくいれたから」
ぼくはそれにうん、とだけ相づちを打つ。
すると母は安心したような表情になって、すこしだけ笑った。
「じゃ、かあさんかいものにいってくるね」
「うん」
エプロンを小脇において、母はいそいそと出ていった。
扉がしまる音をきいて、ぼくは大きなため息をつく。
すると頭がまたぐわんぐわんとして、気持ちわるかった。
でも内心ぼくはすこしだけ安心していた。
みどりにあいたくなかった。
あいたくない、あえない口実ができたからだ。
もう、これ以上ぼくのこころをみだされたくなかった。
今までとちがう自分になっていく、自分がこわかった。
空が青いのが窓越しにつたわる。
せみの鳴き声とか、小鳥のさえずりとか、雑音ばかりが胸へと飛びこむ。
そのすべてが、どうしてか、みどりを感じさせられた。
ぼくは耳をふさいで、ふとんへと逃げ込んだ。
怖かった。恐ろしかった。
「やめてくれ」
もう、これ以上ぼくをくるしめないでくれ。
でもどうして、こんなにも君を思い描いてしまうのだろうか。
君の笑顔、泣き声、囁く声、すべてが、すべてが恋しかった。
会いたくないのに、恋しかった。