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「しろちゃん」

「しろちゃあん」

誰、ぼくをよぶのは。

暗闇にむかって話しかけると、どこからともなくきゃらきゃらと笑い声がした。

「みどりかい」

そう問いかけてみてもへんじはない。

ただきゃらきゃらとした笑い声が止まないだけだ。

急にぼくは不安になる。

まっくらな闇が、ちっぽけなぼくを押しつぶしてしまいそうだった。

「ねえ、みどり、みどり」

必死でよびかけても、やはり答えはなかった。

きえていくきがする。ぼくも、みどりも何もかも。

その瞬間、ぼくは目を覚ました。



また、全身に汗をぐっしょりとかいていた。

熱はさがってはいないようで、からだは熱かった。

虫の声がきこえる。

あたりはもう真っ暗で、母の姿もなかった。

「あ、あ、あ」

暗闇の中で、ぼくの存在をたしかめるように声をだす。

たしかにぼくは此処に存在しているようで、すこし安心した。

どうして、夢の中にみどりが出てくるのだろう。

そのなまえと同じ色をした幸福の証に、ぼくはどうして嫉妬したのだろう。

どうしてぼくはみどりのことしか考えていないのだろう。

「わから、ない」

どうすればわかるのだろう。

どうすればこの想いを断ちきれるのだろう。

「わからない」

ふとんの中で寝返りをうつと、そこも湿っている。

ぬれたふとんをちろりと舐めてみると、そこはすこししょっぱかった。

なみだと同じ、味がする。

また嗚咽がこみあげてくる。

何回も何回もしゃくりあげてはみどりの顔が浮かぶ。

ヒョウ柄に身を包んだきゃしゃな体つき。

きゃらきゃらとした笑い声。

とてもおとなには見えないそぶり。

そしてぼくを救うなにげないひとこと。

それがみどりだった。いとおしくて、恋しくてたまらない。

あえるだけで、思い浮かべるだけでぼくは幸福だった。

でも、みどりにとっての幸せはぼくじゃない。

幸福の証を与えてくれた、ぼくではない他の男のもとにそれはある。

ぼくじゃ、みどりは幸せにはなれない。

悔しいけど、それが事実。





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