14
みどりに逢えたこと。それは数少ないぼくの幸運のひとつだとぼくは思っていた。
「けっきょく、みどりにあえたことだって不幸だったんだよ」
空の青さとか、くものしろさとか、ぜんぶが色褪せた気がする。
かわりに色を濃くしたのはきっと、ぼくのなかのきたない感情。
みどりと別れたあとも、ぼくはずっとベンチにすわっていた。
なにを考えるわけでもなくて、ただずうっとすわっていた。
「み、ど、り」
つぶやいてみても、みどりはいない。
いくら呼んでみたって、みどりの笑顔はぼくにはない。
暗くなった空からとうめいのなみだが空気をつたってこぼれおちる。
ひんやりとしたものがぼくを冷たくつつむ。
でも、ぼくは決してベンチから離れようとはしなかった。
否、離れられなかった。
このベンチを離れたら、みどりとの糸ともいえるものが、なくなってしまうような気がするからだ。
みどりは今頃、ケンカをしていた彼氏と仲直りのお祝いでもしているのだろうか。
みどりの笑顔は、ぼく以外に向けられているのだろうか。
そう思うと、大きな損失感とも言えるものが雨といっしょにふりそそいだ。
服が肌に貼りついて気持ちが悪い。
嗚咽が胸のそこからこみあげてくる。
そしてぼくはついに意識を手放す。
からだがだるかった。
もう、こきゅうなんてしたくなかった。
冷たいものだけが、ただベンチに横たわったぼくを撫でて、けっきょく去っていくのを、きえゆく意識のなかでぼくは断片的につかんでいた。