13
目をさまして、ふととなりをみるとみどりがいなかった。
ぼくはあわてて起きて、あたりを見回す。
すると水のみ場にみどりはいた。またこどもと遊んでいる。
ひとまず、ぼくはほうっと胸をなでおろした。
「しろちゃあん」
みどりはぼくに気付いたらしく、おおげさに手をふってくる。
手を振りかえして、ぼくもあることに気付いた。
みどりの左手に、たいようにきらりと反射するものがついている、ということが。
胸が、おおきく高鳴っていく。
はじめての感情が、ぼくの胸を支配する。
息苦しい。こきゅうが、できない。
「しろちゃん?」
「それ」
「え」
みどりはぼくのゆびさした方向をみた。
左手のくすりゆび。そこにはみどりいろの大きな石がついた、指輪がはめこまれていた。
みどりはそれをみてなんともいえない顔をする。
「これ?」
「うん」
まるで幸せをみせつけるかのように、みどりはそれをぼくの目の前においた。
「かれがね、くれたの」
「どうして」
「けっこん、しようって」
そのとき、みどりは後ろをむいてしまったから、表情はわからなかった。
黒くて、いびつな感情が、ぼくの胸のなかにたまっていく。
みどりとぼくとの平穏な日々。
それにすべてを奪われてしまいそうで、こわかった。
みどりをそれにとられてしまいそうで、こわかった。
でも、ぼくはあくまで平静を装って「おめでとう」とだけつぶやいた。
もう別れはせまっていた。
「ほんとに、いいの?」
ふいにそんな声がした。
みどりの声だった。ぼくがなにを言ったのか質すと、みどりは
「なんでもない」
そういって、わらった。