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そのあとぼくは窓からこぼれる月のかおりに抱かれて眠った。

眠れば、すべてから逃げられる気がした。

そして、夢をみた。

波間に身をあずけて、ただただ魚たちと戯れる夢を。

夢のなかなら想像するだけでなんでもできる。

空を飛ぶことも、すべてを手に入れることも。

けれど、ぼくたちが生きているのは現実。

思い描くだけではどうにもならない。

なんとも不自由で、暮らしにくい世界だ。

ぼくたちはそこから逃れることは決してできない。

ただ自由を許されるのは、夢をみることだけ。

「しろちゃあん」

頭のなかでみどりの声がする。

午後に飲むハーブティーのような、甘くてきれいな声だ。

「どうして、ないているの」

知らない。ただ、なみだがあふれてくるんだ。

頭のなかで返すと、みどりはふしぎそうに頭をかたむけた。

それからうふふときれいに笑う。

「じゃあ、ないて。おもいっきり、空にむかって」

そのことばで、ぼくのなみだはついにとまらぬものとなった。

みどりの声が消える。

雨の音で、月の音で、空の音で。

きえかけたみどりの声は最後に笑った。

「もお、だいじょおぶだね」

ひとの声は、こんなにもあたたかいものだとはじめて知った。



「み、ど、り」

白くて、生活感のまるでない天井に両手を捧げる。

おきぬけだからか、身体はあまり動かなかったけれど、頭だけはさえていた。

顔をゆびでなぞると、なみだはもう流れてはいなかった。

うつらうつらと日付を確認して、きょうは土曜日だったことに気付いた。

そして、昨日みどりと、いつに会うのか約束してなかったことも思い出す。

「…いるかな、みどり」

頭の中に公園でこどもたちと戯れるみどりが浮かぶ。

刹那、みどりにはやく逢いたくなった。

早くみどりに会うのだと思うと、身体はスムーズに動いてくれた。


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