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夜蛇神伝説  作者: 津那
7/10

     動く道 2

残虐シーン 官能表現在り。ご注意ください。

 バイクは山道を下る。バイクが走れない悪路になったころに、ガス欠で止まってしまった。バイクのライトが消え、辺りは真っ暗で何の音もない。闇に目が慣れると、ぼんやりと前方に灯が見えた。

「遅かったですね。日が暮れてしまいましたよ。」

 早田が、旧式の提灯を掲げて立っていた。

「ささ、お腹も空かれたでしょう?夕餉の支度も整っておりますし、女将もお待ちでございます。」

 柴田は、警戒しながら、早田の後ろをついて歩く。

 竹林が見え、その中の道を進むほどに、手入れが行き届いていることがわかる。本当に、ただの宿なのか?

 柴田の目の前に、立派な風格の純和風旅館が現れた。

「ようこそ、四奏館へ。」

 早田は、言うと、引き戸を開けた。

「ようこそ、おいでくださいました。当山荘女将の玉枝でございます。」

 柴田は、玉枝の顔を見て、一瞬息を呑んだ。

 美紗堵・・・

 柴田が、恋慕している人妻、美紗堵。上司の妻であり、同じ団地に住んでいる。独り者の柴田に何かと親切にしてくれる、美しい美紗堵にそっくりな女が、和装で、三つ指をついて柴田を見上げている。

「お待ちしておりました。さあ。どうぞ。お部屋にお食事も用意しております。」

 柴田は、ゆっくりと玄関を上がった。

 背丈もスタイルも、美紗堵に瓜二つなのである。

 少し茶に染めた髪、厚めの唇、華奢な撫肩。声まで、美紗堵そのものだ。

 直属の嫌味な上司の自慢の妻で、子供のいない家庭に、上司は柴田たち独身連中をよく招いた。美紗堵の料理は美味しく、突然の柴田たちの来訪に嫌な顔ひとつせずに、応対してくれる人。何度も夢の中で柴田は美紗堵を抱いていた。

 玉枝が部屋へ案内した。

 確かに、部屋には柴田が仲間に預けた荷物が置いてあった。

 見事な膳が1人分用意されている。それを見ると、急に空腹を思い出した。昼から何も食べていなかった。喉もからからだった。

「おビールでも、いかがでしょう?喉が渇きになっていません?」

 玉枝が、ペタリと柴田の隣に座り、下から艶やかな目で柴田を覗きこんで微笑んだ。

 柴田がグラスを持つと、玉枝がビールを注いでくれる。銘柄の知らないビールに、柴田はあまり不思議と思わず、ぴたりと寄り添って来る玉枝の髪の甘い匂いを嗅いでいた。

 柴田はビールに口をつけた。旨い。ぐびぐびと喉を鳴らして呑むと、急激に空腹を感じた。飢えたようにガツガツと膳を平らげる。玉枝は、美紗堵と同じ顔で、美紗堵のように、美味しそうに食べる柴田を嬉しそうに目を細めて見ている。

 鍋から菜を取分けながら、嬉しそうに、「どうぞ」と、椀を渡す。柴田は、部屋の豪華さも、調度の品格も、不思議とは思わずに、玉枝に見惚れた。

 膳を猛烈な勢いで食べつくした頃、玉枝が、とろりと熱い酒を杯に注いでくれた。呑むとカッと喉が焼けるようだが旨い。柴田は、玉枝のしなやかな体と美しい美紗堵にそっくりな顔を、撫で摩りながら、うっとりと酒を飲んでいた。

 柴田が、玉枝の胸に襟元から手を差し込んでも、玉枝は、くすっと甘えたように笑っただけで、うっとりと目を閉じた。

 柴田は、夢にまで見た美紗堵にそっくりな玉枝の唇を夢中で吸った。柔らかい乳房を摩りながら、柴田は玉枝を押し倒そうとした。

「・・・一緒に、お風呂にはいりません?」

「風呂?」

「ここでは・・・あたくし、恥ずかしい・・・。」

 柴田が惜しそうに玉枝から体を離すと、玉枝は部屋に続く湯殿を掌で指し示した。玉枝は、柴田の前でゆっくりと着物を脱いで行く。

 真っ白い玉のような肌が現れた。形の良い乳房に、ゆったりと張った腰つき、スラリと長い手足。見惚れている柴田に、恥ずかしそうに玉枝は背を向けて、湯船に向かう。柴田は、もどかしい手つきで脱衣して、湯殿に行った。体を洗っている玉枝に抱きついた。柴田を、玉枝はゆっくりと振り向き、唇をそっと合わせた。乳房を揉み唇を夢中で吸う柴田に、されるがままになっていた玉枝は、柴田が少し唇を離すと、身をするりと柴田の腕から抜いた。

「お背中をお流ししますわ。」

 柴田は、大人しく玉枝に洗わせた。見れば見るほど、玉枝は美紗堵に似ている。

「あんた、本当に玉枝って名前なの?」

「・・・どなたかに、似ていらっしゃるの?」

「ああ。美紗堵って女に、あんた、そっくりだ。」

「・・・その方のこと、お好きなんですね?」

「何故わかる?」

「・・・では、あたくしのことを、今夜だけ、美紗堵と呼んでくださいな。」

「いや・・・それは・・・」

 玉枝は、うっとりと柴田を見上げた。

「ううっ・・・美紗堵・・・。」

 柴田は、美紗堵と呼んで、玉枝を抱き寄せた。

 柴田は湯船の中で、美紗堵に繋がったまま、吠えるように、何度も美紗堵の中で果てた。

 ガッ

 首に鋭い痛みが走る。柴田は、美紗堵の中で果てながら、意識が遠のくのを感じた。


 柴田が目を覚ますと、そこは光の一切届かない闇の中だった。

 手探りで、自分が裸体であり、床は泥と瓦礫、壁や天井は岩と滲み出る水であることがわかる。首がヒリヒリと痛む。指で触ると、二つの小さな穴のようなものがあった。

 噛まれたのか?美紗堵に似た女に。

 ここはどこだ?

 何かが、おかしいと思っていた。警戒していたのに、女に溺れて、このザマだ。あれが、美紗堵であるはずがなかったのに。

  

 柴田は、時の経過もわからなくなっていた。

 ここは、少し寒いが、裸でも凍えることはない。多分、体は床の泥だらけで、自分が排泄した尿のアンモニア化した悪臭が充満していた。何も飲んでもいない。食べてもいないが、空腹も、のどの渇きもさほどない。あまり時間は経過していなきのかもしれなかった。


 柴田が、うつつに眠っているのか起きているのかわからずにいたとき、地響きと大きな岩が地を這う音がして、薄い蝋燭の灯が、差し込んだ。

「さあ、すぐる様、どうぞ、こちらでお待ちになって。」

 女の柔らかな声がして、下駄を履いた体躯のいい男が現れた。

「誰か、いるの?」

 男が、穴の奥に声をかけたので、柴田は、飛び出した。

「ああ、良かった。俺をここから、出してくれないかな。どうやら、何か変なことに巻き込まれちゃったみたいでさ。」

 柴田は、至ってまともそうに見える岩本に、愛想笑いを浮かべて話しかけた。

「変なことに巻き込まれたって?」

「あ、俺、この上の大貫峠でバイクレースしてて、それで、迷ってここに来ちゃったみたいなんだよね。変な宿に泊らされて、眠って、目が覚めたらここにいたってワケ。」

 柴田の愛想笑いを浮かべた顔を、岩本は、穏やかな顔で眺めていた。その唇の端がきゅうっと釣りあがり、ニヤリと笑う。

 早田が狩ったのか?活きの良さそうな餌だ・・・

「それは、お困りでしょうね。」

「ま、俺もこんな格好なんで、ちょっと、着る物を貸してもらえないかな?靴も、頼みたいんだけど・・・。」

「・・・どうして?」

「えっ?だって、俺、困ってるの、わかるでしょう?」

「お困りのようですね。」

「だから、助けてくれって言ってるだろ?」

 柴田は、岩本に飛び掛った。岩本は、飛び掛られたときに、すっと体をずらし、スローモーションに見える柴田の手を払って後頭を押えた。ドウと音を立てて、柴田は無様に転がった。岩本は、自分の腕を嬉しそうに眺めた。そして、起き上がる柴田を、見て、声を出さずに笑った。

 狩る者と狩られる者の存在。

 かつて、自分を見下し、嘲笑い、無視した人間の象徴のような男。裸で夜蛇神の巣食う場所に餌として置かれている立場でありながら、人間界での常識を維持している男。バイクレース?困っている人を助ける?服を貸せ?・・・笑う。笑ってしまうではないか。

人間とは、このように哀れで滑稽な餌なのか。

「あんた、何者なんだよ?」

 柴田が、目に恐怖と愛想笑いを浮かべている。岩本はゾクリと震えた。ああ、この感覚はたまらない。

 ゾクゾクする。

 立ち上がった柴田を岩本は、虫で遊ぶ幼児のような残虐さで嬲った。強がっていた柴田は、かつての自分を見下げたヤツラに見える。そういえば、学校では、サウンドバックにされていたっけ。こんな男だったよなぁ。僕を虐めてくれたヤツラって・・・。

「ぼ、ぼぉ、やべでぐだびゃい・・・」

 鼻と歯を折られて、血を流し、涙を流して、柴田が岩本に懇願した。

「ああ、痛かったですか?すみませんね。・・・でも、少し、大人しくしててくださいよ。あなたは、餌なんですからね。」

 岩本が、這い蹲っている柴田に、上から囁いた。

「えっ?」

 柴田は、驚愕の目を岩本に向けた。

 柴田の視線の先に、黒い着物を身につけ、前胸と手足を剥き出しにした青黒色をした肌の、2mを優に越す筋肉質の牛頭の魔物を見た。魔物の傍らには、紅い目の美しい女が立ち、岩本をしっとりとした目で見詰めている。岩本は、柴田の後ろ頭を左手で掴み、ぐいと持ち上げた。

 柴田が風船のように軽く感じる。ジタバタする柴田の動きが、岩本をゾクゾクさせる。

 これが夜蛇神、与弥太か・・・

 岩本は、魔物を恍惚の想いで見た。

 柴田はガクガクと魔物を見て震えた。岩本に差し出されている柴田は宙吊りのまま、魔物に首をガブッと噛まれた。

「ぐあっ・・・」

激痛が走る。

柴田の左胸に、志乃は紅の唇をつけた。岩本は、飢えを感じ、ビクビクと体を震わせている男の右脇腹にガブッっと食いついた。牙のない岩本は、噛み切った傷から迸る血潮を、舐めた。

「ああああああああああ…」

 柴田の断末魔の叫びが、だんだん弱弱しくなる。

 岩本は、志乃が立てた歯跡から、迸る血潮を喉を鳴らして飲んだ。

 志乃は着物の裾を翻して、柴田の下腹部に跨って揺れている。

 柴田を貪り喰いながら、魔物と志乃は繋がり、志乃は、岩本に見せたことのない肢体で歓喜に悶えている。岩本はすすり泣きながら、それを眺めていた。

 岩本は、口の中に違和感を感じて、ぺロリと舐めた。上顎から、白銀の牙が生えていた。牙が自分の下顎に内側から突き刺さるのだ。

 まあ・・・じきに慣れるだろう。

 岩本に慶びがこみあげ、岩室の天井に向かって笑った。


続きは、岩本氏が、狩に出ます。

読んでください。

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