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夜蛇神伝説  作者: 津那
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第六話 鬼の復活

誘拐シーン、残虐表現、官能表現在り。ご注意ください。

岩本氏の持ち帰るご馳走で、夜蛇神が人の姿に戻ります。

 岩本は、神戸の市街地をぶらぶらと歩いていた。

 早田から、餌は都心で狩るように言われている。人間の多いところの方が、化け物は紛れ込めるのだ。

 岩本の頭の中には、牛頭の与弥太と志乃の姿がある。

 鬼の力が、欲しかった。

 東京は、遠すぎる・・・神戸にも、餌はたくさんいるのだ。

 岩本は眠りすぎた。飢えを感じてから目が覚めたのだ。

 すぐに、狩れると、志乃に証明して見せたかった。

 公園から、人間たちの話し声が聞こえた。喚き声に混じる泣き声。

岩本の目が、自動販売機の傍に屯っている少年達を捉えた。

 私服を着た少年に、学生服の少年達が3人で群がっている。私服の少年は青白い顔をして、俯いていたまま、涙と鼻血でどろどろにした拳を突き出している。

「そうそう、大人しく、貸してくれたら良かったんだよ。里村君。」

 里村君から受け取った紙幣を広げて、学生服の男の子の回し蹴りが私服の少年の頬に当たった。

「冗談?」

「うっそ?千円?冗談でしょ?」

 こんな光景をよく覚えている。岩本は、里村の立場にいたのだ。

 憎かったなぁ・・・力があれば、殴り殺したかったよ。なあ、里村君。

 岩本は、唇の端を吊り上げた。

 深刻な顔をして、自動販売機に岩本は近付いた。大人の登場に、少年達は敵意まるだしの視線を向け、私服の少年を背後にこっそりと隠した。

 岩本は、笑いを堪えながら、一番強そうな少年の目に厳しい目を向けた。

「なんだよぉ?おっさん」

「弱いもの虐めはいけないよ。君達。」

「はあ?」

 岩本は笑いを必死で堪えた。

「お金が、欲しいのかい?」

 少年達の顔に、いろんな表情が浮かぶ。

「な、なんだよ?おっさんが、俺達に金でもくれんのかい?」

「ああ、あげるとも。」

 岩本は、財布を取り出して、6万円を抜いた。財布を少年達が覗き込む。岩本は6万円を少年達の鼻先に突き出した。

「だからさ、その子は放してあげなよ。」

 少年達は、喜びいっぱい顔に浮かべて6万円をひったくった。

「おい、里村、このこと、絶対誰にも言うなよ。」

 里村は、踵を返して逃げ出した。

「さて、君達。もっと、お金が欲しくない?」

「何だよ?おっさん、何者だよ?」

 岩本は、懐から名刺を取り出した。“JJプロダクション 人材開発部長 岩本すぐる。”

「JJプロダクション?」

「知らないかもしれないけど、モデル、俳優の派遣業しているんだ。」

 少年達は怪訝な顔をするが、岩本の傍から離れようとしない。

「君達、さっきの蹴りは良かったよ。いや、ごめん、見せてもらってた。」

 少年達は、蹴りを入れた少年を羨ましそうに見ていた。

「君達、いくつ?高校生?いい体してるね。うん、顔もいいよ。モテるだろ?君。」

「まー、そんなとこだけど、俺達、停学中。親にバレねーよーに、ガッコ行くフリしてるだけってとこ。」

 蹴りを入れていた少年が、ウキウキと言う。

「じゃ、内緒でバイトできる?」

「バイト?」

 蹴りを入れた少年を羨望の眼差しで見ている。

「実は、ちょっとした配役なんだけど、3人、探してるんだよね。」

「えっ?3人?」

 少年達は顔を見合わせた。

「うん。…停学中にバイトって、マズイよね?」

「あ、いや、俺ら、全然、誰にも言わねーし。」

「そうかい?…ま、1日だけのエキストラだけどね。」

「ど、どんなドラマなんスか?」

 岩本は、困った顔をして、少年達に顔を近づけた。

「AV男優…。君たち、経験あるよね?」

 少年達の顔が変わる。喰いついた。岩本は笑いを堪えた。

「そ、それと、蹴りって、な、何の関係が?」

「ま、ちょっとしたレイプシーンも入れようかなってとこでさ。」

 少年達が唾を飲み込む音が、聞こえた。

「でも、ま、男は顔は出ないし、バイト代も、1人10万くらいなんだけどね。…やっぱ、無理だよね?いきなりだしね?」

「…俺、やりますよ。」

 蹴りを入れていた少年が言う。

「お、俺も。」

「あ、俺もやります。」

「じゃ、明日、朝、5時だけど、この公園に来れる?」

「朝5時ですか?」

「うん。ロケ地が、高知なんだ。」

「高知って、あの高知県?」

「うん。1泊してもらっていいよ。旅館まるごと借りてるから。」

 少年たちが少し躊躇する。

「あ、いいよ。無理だったら。他の子探すかな・・・ええと・・・。」

 岩本が忙しそうにキョロキョロと周囲を通る若い男に目を走らせながら、素っ気無く言うと、蹴りを入れていた少年が意気込む。

「大丈夫ですよ。俺、明日5時。ここに来ます。」

「そう?16歳以上だよね?」

「あ、大丈夫ッス、俺ら、17だから。」

「17か…本当にいいのかな?」

「絶対、大丈夫。俺ら、実際より老けて見えるから。」

「じゃ、明日。ここでね。」

「はいっ。」

「あ、準備金、あげるよ。」

 岩本は1枚ずつ万札を渡した。少年達の顔が輝く。

 岩本は、そそくさと、その場を立ち去った。

 里村という少年を帰した後に失踪はまずい。


 翌日の5時半に岩本は、同じ場所に立っていた。

 果たして、少年達が3人とも別々に現れた。岩本の唇の端がきゅうっと釣りあがった。

「おはよう。」

「おはようございまっす。」

「ちゃんと、両親に言ってきた?」

 あ…という顔をして3人が顔を見合わせた。

言ってない。

岩本は笑いを堪えた。

「あ、言えないよね。ごめんごめん。さ、行こうか。」

 公園には、運転手が迎えに来ていた。

「さ、乗りなさい。」

 少年達はウキウキと遠足気分で車に乗り込んだ。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」

 四奏館で出迎えに出たのは、志乃だった。玉枝もヒサエもいて、ぴちぴちとした獲物に、目を輝かせている。

「まあ。どうぞどうぞ、おあがりくださいな。」

「いやぁ、女将さん、美人だねー。」

 少年達の理性の箍は既に掻き消えている。

豪奢な部屋に見事な膳、とろりとした泉質と、早田に聞かされる女性への性技の話題に、少年達はバイトのこともウキウキと、有頂天になっていた。

 少年はそれぞれ別の部屋をあてがわれた。

 志乃、玉枝、真弓が少女に変容して、少年達の部屋へ行った。

 岩本は、与弥太の幻惑の力をニヤニヤしながら見ていた。今時の女子高生に見事に志乃も玉枝も変じているし、真弓は清楚なイメージではなく、志乃たち同様、少し擦れた女の子に変じている。3人とも驚くような美少女であり、はちきれるような肉体になっている。

 少年は、初めての酒の宴に酔い潰れて眠っていた。

 半裸でベッドに現れた少女に、夢中になってしがみついた。


 3人の少年は、山荘奥の岩室に連れて来られていた。

 そこには、数段艶やかになった真弓がいて、岩本と早田に微笑みかけた。与弥太が、現れた。

 少年たちは、朦朧とした顔で、突っ立っていた。

 ガブリと、少年の喉に、与弥太は噛み付いた。

 少年はビクビクと体を震わせている。

「嗚呼…」

 志乃が少年の下腹部に跨ったまま、白い喉を仰け反らせた。岩本は、少年の首筋に鋭い牙を突き立てた。

「うあああああ…」

 少年が弱弱しくもがき、断末魔の雄叫びをあげている。

「うまい・・・うまいぃぃ・・・」

 岩本は少年の首に吸い付いて貪るように吸った。

 飢えていた五臓六腑に、生暖かい新鮮な血潮が満ちてゆく。

 

 幾晩吸い尽くしただろうか。

 最後に生き延びた少年は、やはり、里村君に蹴りを入れた少年だった。少年の最期には真弓が少年を吸い尽くした。

「げげふっ」

 大きなげっぷをして、岩本が口の端から赤黒くなった血を滴らせた。

 与弥太が、

「すぐる」

 地の底から響くような不気味な低い声で、岩本を呼んだ。手招きされて、岩本は、与弥太の足元に膝間付いた。他の者たちは、下がった。岩本は、岩室の中で、与弥太の足元に与弥太を前に座っていた。どれくらいの時間が経過したのか、岩本は、ぼんやりと与弥太の前に座っている腰を、ゆっくりと伸ばした。

 力がむくむくと湧きあがり、岩本はうんと背伸びをした。

 しなやかな青年のような肢体と、身軽さと、力を感じる。

 与弥太が指し示した水盆に写る岩本には、志乃や真弓のような禍々しいほど美しい容貌が写る。岩本は自分に授かった顔を髪を撫でてみる・・・岩本は、与弥太を見た。

 与弥太は、両手を頭に置き、角を持って頭を揺する。

 牛頭がとれ、今の岩本に似た、麗しい男が、そこにスラリと立った。

 人間か・・・

 岩本が、驚いて見ていると、与弥太は首をグキグキと回し、牛頭を岩本に被せた。岩本の肌が青黒く変わり、体躯が大きくなった。与弥太が、岩本の頭から、牛頭を外すと、もとの美貌に戻る。

「僕も、鬼になれたのでしょうか?」

「うん。存分に、暴れよう。私も、外に出てみたい。」

「あなたが移動できるならば、いっそ、東京に行きませんか?」

「良い餌場のようじゃのぉ。」

「多分、餌だけではなく、僕のような人間もいますよ。」

「ほほぉ。仲間を、増やそうではないか。すぐる。お前のような者に、会いたい。」

 与弥太は美しい顔で岩本に微笑む。

「いくらでも、います。」

 与弥太は、飛び跳ねる。

「日の光は、嫌いだ。」

 岩本は笑う。

「東京は、眠らない街です。夜の狩には適していますよ。」

 与弥太は、嬉しそうに笑う。

「先ほどの少年の味は、実に見事だった。私に、ほれ、この通り力を与えおったわ。ふはははは。」

「お役に立てて光栄です。」

「志乃も、玉枝も、真弓も連れて行こう。早田と、ヒサエもだ。」

「畏まりました。」

 

「すぐる様は、本物の鬼になってございます。おめでとうございまする。」

 志乃、玉枝、真弓、ヒサエが、うっとりとした目で岩本を見た。

 岩本は、満足そうに微笑み、早田と与弥太と顔を見合わせた。

 与弥太の、人の姿を初めて見た者たちは、与弥太に心酔した。

 


ここまで読んで下さいましてありがとうございます。

次は、鬼が山奥の地を離れていよいよ都心に進出します。

※助けた形になった里村クンが、岩本氏の仇になって行きます。鬼はいつまで好き勝手に暴れられるでしょうか。

請うご期待!

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