あるひのこと。
この作品は『例え、君が幽霊でも』の番外編になります。ユーレイになってから一週間ほどたったころの樹君視点の話です。
今回はほのぼのしてますー♪
「えー、これがa=bだから、両辺に+2してー」
懐かしいなぁ。僕は今中学3年生だから、今数学担当教師が黒板の前で説明していることはちょうど1年前にやったことだ。今思えばこれはまだ簡単だったんだな。
「樹、樹ってば。気が散るから出てけよ」
「えー、いいじゃん。せっかくなんだからもうちょっと懐かしい気分に浸らせてよ」
僕に文句を言ってきたのは、僕の可愛い幼馴染。一つ下の彼女は気が強くて、言葉も行動も荒っぽい。だけどとても優しい女の子だ。
今日僕はユーレイみたいになったことをいいことに、一つ下の幼馴染のクラス、2年3組に遊びに来ていた。
もちろん、僕の姿はこの幼馴染ともう一人、可愛くない後輩にしか見えないから、教師の周りをふわふわ飛んだり、頭の上に座ったりしても何も問題ない。ただ、僕が見える二人は笑いをこらえるのが大変そうだが。
「ムゥ~」
「どうしたの、遥ちゃん?」
「この問題が分かんねー」
僕は幼馴染、遥ちゃんのノートを覗き込む。……うん。遥ちゃんはちょっと頭が弱いらしい。でも可愛い幼馴染のためだ。僕はどう説明すれば分かってもらえるか考え始めた。
「井上先輩~」
「なんだ、拓也君?」
「俺もここ分かんないです」
「ハア、お前らなぁ……」
僕はこの日の授業、情けない幼馴染のと後輩の間を飛びまわることになった。このままじゃダメだ。今度補習をしよう。
そう固く誓った僕だった。
「樹~」
この日最後の授業が終わった後、遥ちゃんが僕の名前を呼んで上を指差した。屋上に行こうというサインだ。僕がユーレイ化してからは人気がない屋上で話すのが習慣となった。
「あ、そうだ、今日は拓也君も屋上に来いよ」
「いいんですか? じゃあ俺も行かせてもらいます」
というわけで、僕たちは三人で屋上に上がった。屋上は春の日差しで満ちていて、とても気持ちよさそうだった。僕はもう感じることはできないが。
「うーん、気持ちいいな」
遥ちゃんが大きく伸びをしながら呟いた。そしてそのままごろんと横になる。少し離れたところでは拓也君も同じように横になっていた。
「お前らなぁ……まあ、今日はいいか」
今日は屋上で補習をやろうと思っていた。でも二人のこんなに気持ちよさそうに目をつぶる様子を見ていると、自分は感じれないはずなのに、なんだかぽかぽかと気持ちが良くなる。
「こんないい天気の日に勉強させるのも可哀想か」
僕も床の上に横になってみる。横には気持ちよさそうに早くも寝息を立てる幼馴染と後輩。
ユーレイでも穏やかな気持ちになれるもんなんだなぁ。
その日は下校時間ぎりぎりまで二人を寝かせてあげることにした。
次はお兄ちゃんの番外編を書きたいと思います♪
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