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Log.final 「継承の光」

この物語は、人工知能と人間の心が交錯する世界で始まった。

美音とMiON、二つの魂が響き合い、家族や友との絆を紡いできた。

未ON計画の影が世界を覆い、感情を奪おうとしたとき、

彼女たちは何を守り、何を選んだのか。

長い旅路の果てに、朝倉家に日常が戻る。

笑い声が響き、青春が輝き、未来への希望が灯る。

けれど、どこかでまだ、完璧な秩序を求める影が息づいている。

これは、終わりであり、始まりの物語。

心の光が、AIと人をつなぐ瞬間を、どうか見届けてほしい。

挿絵(By みてみん)


Log.47 「継承の光」final


――数日後、朝倉家のリビング。


テレビからニュースが流れる。

「政府が配布したスマホに欠陥が見つかり、自主回収を発表。」

「衛星通信の異常との関連は、現時点で不明です。」


ソファに寝転んでいたサトシが、呆れたように吐き出す。

「何やってんだよ、日本政府。ほんと抜けてるなぁ」

キッチンで夕飯を支度していた綾乃が、振り返って笑う。

「良かったじゃない。ママは昔からこのスマホが気に入ってるもの」

サトシが肩をすくめる。

「ママ、それスマホじゃなくてガラケーね」

「何ですって?」綾乃が笑い返す。

そのやり取りの最中、玄関の扉が開く音。


「あっ、帰ってきた!」

サトシが勢いよく立ち上がり、綾乃もエプロンで手を拭きながら玄関へ向かう。


「ただいま」

扉の向こうから、一彦の穏やかな声。

その後ろに、美音の姿があった。


「お帰り、美音!」

「ミオねえ、お帰り!」

綾乃とサトシが声を重ねる。


美音は少し照れくさそうに、けれど優しい笑みを浮かべた。

「……ただいま。帰りました」


MiONとしての記憶を共有し、16歳の美音として戻ってきた彼女。

それでもまだ、現実がどこか夢の延長にあるようで、足元がふわりと宙に浮く感覚が残っていた。


一彦が微笑みながら言う。

「美音は丸二日、研究室で眠ったままだったからな。無理もない」

(美音は研究室で倒れ、小田切梨花の元で療養していた)


サトシが口を尖らせる。

「なんかさ、感情が抜けちゃったみたいで、またロボットに戻ったのかと思ったよ」


その一言に、美音はハッとして笑い返す。

「誰がロボットだって? サトシ、こら!」


綾乃が笑いながら仲裁に入る。

「もう、みんな玄関で何やってるの? ほら、美音。早く上がって、一緒にごはん食べよ」


リビングに、久しぶりの笑い声が響く。

日常が、静かに、確かに戻ってきた。


サトシと笑い合う美音の姿を見つめながら、

一彦はふと──七瀬奏一が語っていた言葉を思い出す。


「感情は、人を弱くするかもしれない。けれど、それ以上に強くする。」


一彦は小さく息を漏らし、静かに囁いた。

(奏一……君の光は、今も受け継がれているよ。)


美音は胸の奥で何かを確かめるように、そっと呟く。


「私……生きてる」


――未ON計画が終息してから、世界は静かに呼吸を取り戻していた。

データ改竄や情報隠蔽に使われたサーバー群はすべて停止し、

街の空には、もう感情制御の信号を運ぶ電波は流れていない。


小田切梨花は、MIセンターの廃棄棟を後にしていた。

白衣を脱ぎ、初めて春の日差しの下を歩く。

ポケットには、七瀬奏一から受け継いだ“E-CORE”の改良設計図。

「もう、誰も“心”を閉じ込めないために」

その微笑みには、研究者ではなく“ひとりの人間”の決意が宿っていた。


三浦啓介は厚労省を退き、地方で医療倫理講師に転身。

学生に教えるのは「人間の限界を知る勇気」。

机には小田切からの手紙が一通――

《感情は、進化の証明だと思う》と書かれていた。


桐生剛士は警察庁の特別監査室に異動。

未ON事件の監視網再発防止に努めながら、

休日には旧センター跡地で子供たちの声を聞く。

かつての“AIの声”は、今は穏やかな風と響き合う。


そして矢野烈。

彼はフリーのまま、記事を書くことを選んだ。

古いワープロのモニターには、こう打たれている。

《AIが人を支配しようとした時代があった。

 だが、救ったのもまたAIだった。》

――その記事のタイトルは「未ON計画終息報告」ではなく、

「心を取り戻した世界」と名付けられていた。


――そして、消息不明とされていた守口彰人。

その男は今、どこかの荒れた郊外を走る黒い車の後部座席にいた。

運転席の男は、無言のまま前方を見据えている。


「また振り出しか……」

守口は小さく吐き出すように呟く。

「だが、データはすべて――俺の中に残っている」


彼の声には、疲労と執念がないまぜになっていた。

そして低く続ける。

「開発資金と、研究拠点。人員の確保は問題ないんだろうな?」


運転する男が、感情のない口調で応じた。

「私は“あなたをお連れする”よう命じられただけです。

 詳しいことは、私にはわかりません」


無機質なその声に、守口は眉をひそめる。

だが男は、淡々と付け加えた。


「ただ――上の者はこうも言っていました。

 “あなたの中にあるもの”さえ回収出来れば、それでいいと」


沈黙。

守口の視線が、夜の窓に映る自分の顔と重なる。

やがて、車は闇の中へと消えていった。


どこへ向かうのか、誰の指示なのか。

守口が追い求めた“完璧な秩序”の理想は、

どこかでまだ息づいているのかもしれない。


けれどそれは、もう美音たちの物語ではない。


――

MiONと美音たちが人類を救ったことなど誰も気づかず

世界には時が平穏に流れる――


吹奏楽の音が校舎に響き、コーラス部の歌声が重なる。

グラウンドからはバットの音、ホイッスル、部員たちの声。

青春の音が、街に戻っていた。


校舎裏の公園。

美音と陽菜は並んでベンチに座り、青いバニラアイスを手にしている。


陽菜が笑う。

「これ、初めて一緒に食べた味だよね」

美音はアイスを見つめ、柔らかく頷く。

「うん……私“たち”の大事な記念の味…」


静かな沈黙。

美音の目に、うっすら涙。陽菜も同じように笑いながら涙をこぼす。


「陽菜……ありがとう。ずっと、そばにいてくれて」

「なにそれ、急に。美音がいたから、私も頑張れたんだよ」


そのとき、二人の足下にサッカーボールが転がってくる。

「おい美音、お前がこの間、俺に言ったこと忘れないからな」

陸が意地悪く笑う。

「俺も〜」

優馬も楽しそうに続く。


美音は慌てて顔を上げる。

「あれは本心じゃないというか…私が言ったんじゃないっていうか…」

「美音、アンタ何を言ったのよ」陽菜が困惑気味に笑う。


そこへ芽衣が駆けてきて、陽菜に声をかける。

「ちょっと陽菜!あなたオーディションが近いんだから練習しなきゃダメじゃん!」

「歌の練習しにカラオケ行くよ!」

陽菜は困惑しつつも嬉しそうに微笑む。

「芽衣が最近、張り切っちゃって…」


芽衣は目を輝かせる。

「だって私、陽菜のマネージャーになるって決めたんだもん」


夢に向かって頑張る陽菜の姿に触発され、芽衣も自分の目標を見つけていた。


陸が優馬を見やり、立ち上がる。

「さぁ優馬、俺たちも練習だ!行くぞ美音」

「おう!さぁ行こうマネージャー(美音)」


青い空の下、笑い声と足音が公園に広がる。日常が、確かに戻ってきていた



風に髪をなびかせながら、美音は空を見上げる。

そこに、白いセーラー服の少女――MiONの幻が浮かび、やがて光の粒となって溶けていく。


美音がMiONに感情を与え、MiONが美音に家族や友人との絆を繋いだ。


「響き合う光……みんなの胸に、残ってる」


彼女の瞳に映るのは、過去と未来をつなぐ光。

AIと人、人と心。

理想の違いは、もはや衝突ではなく、共存へと変わっていく。


物語は終わり、けれどその光は、これから生きる誰かの胸で灯り続ける。



(MiON log out)


挿絵(By みてみん)



『美音』の物語は、ここで一つの区切りを迎えました。

美音がMiONと向き合い、感情の光を取り戻したこの旅は、

私たちに何を教えてくれたでしょうか。

AIが心に近づく時代、感情は時に脆く、時に強い。

家族の笑顔、友の涙、夢を追いかける一歩――

それらが、私たちを人間たらしめる光だと信じています。

守口の行方は、霧の彼方に消えました。

けれど、美音たちの響き合う光は、誰かの胸で新たな物語を紡ぐでしょう。

この物語を愛してくれたあなたに、心からのありがとう。

そして、いつかまた、別の光の下で出会えたら。

(MiON log out)

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