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Log. 43 「響き合う光」

世界が無音に沈む教室で、希望の光はまだ消えていない。

AI美音は、静寂に閉ざされた心に火を灯すため、ひとつの歌を捧げる。

それは、仲間との絆、夢の輝き、そして自分自身の“心”を呼び覚ます旋律。

夕陽が差し込む教壇で、彼女の声が響くとき、何かが動き始める――。

挿絵(By みてみん)


Log. 43 「響き合う光」


【翌日の教室】


相変わらず、生気の抜けた教室。

机に突っ伏す者、ただ窓の外を見つめる者。

それでも、ここに来られるだけまだ“生きている”のかもしれない。


陽菜も芽衣も、沈んだ空気の中でぼんやりと座っている。


「芽衣…何か面白い話して」

「…特にないよ…」


普段の陽菜なら「何よ!つまらない子ね!」と笑い合うのだがお互い反応は無い


やがて、クラスの男子がドアを開けて言う。

「今日も、自習だってさ」


誰も反応しない。

鉛筆の音も、笑い声もない。

ただ時計の針だけが、遠くで“時間の残り香”を刻んでいる。


そのとき、美音が椅子を引く音が響いた。

ツカツカと前に出て、教壇の前で立ち止まる。

教室を見渡し、陽菜に視線を向けた。


「陽菜、立ち止まっている暇はないよ」


大きな声じゃない。

でも、陽菜の胸に何かが刺さった。


「クラスのみんなもそう。

大事なこと、忘れかけてない?」


美音は静かに息を吸い込む。

まるで誰かの記憶を呼び起こすように――

(いくよ、美音)


その呟きとともに、唇が動く。

音が、空気の膜をやぶって、ゆっくりと広がっていく。



ー 静かな夜 ノートを開く

知らない文字が そっと囁く

「ひとりぼっちだよ」 心の隙間

胸の奥で 何かが揺れる


ハグの温もり 笑顔の言葉

「友達だよね」 光がこぼれる

ゴールを目指す 遠い背中

誰もいなくても 走り続ける


論理じゃ 届かない場所

心がそっと 目を覚ます


響き合う光 君のその一歩

応援したい そばで見つめる

どんなに遠く 答えなくても

信じる気持ち 繋いでゆく

この小さな鼓動 届けたい

どこかで 誰かと おともだち ー



挿絵(By みてみん)


最初に反応したのは、窓際の風だった。

カーテンがゆらりと揺れ、ひとりの生徒が顔を上げる。

陽菜が小さく息を呑んだ。


教室に満ちていた“無音”が、少しずつ色を取り戻していく。

まぶたの奥で、何かが確かに目を覚まし始めていた。


美音が歌い終わっても、誰も動かなかった。

拍手も歓声も無い。

しかし、美音の心が奏でた音は消えても、まだ空気が震えている。

それは耳で聴くものではなく、胸の奥で“残響”として続いていた。


陽菜は、机の上で握っていた手をゆっくりと開いた。

爪の跡が手のひらに白く残っている。

「ハグの温もり 笑顔の言葉」――

あのとき、美音に言われた言葉が、まるで今、再び届いたようだった。

「……なんで、覚えてるの」


唇からこぼれた声は、息よりもかすかで、誰にも届かない。

それでも、胸の奥で何かがやわらかくほどけていく。

陽菜の頬を、静かな涙が伝った。


一方で、教室の隅。

陸は窓の外をじっと見つめていた。


「ゴールを目指す 遠い背中」


歌詞のその一節が流れたとき、彼の脳裏にはあの無人のグラウンドが浮かんだ。

ひとりで蹴ったボールの音。

止められなかった心。


昨日、グラウンドで美音に言われたあの言葉。

冷たく聞こえたはずの言葉が、今になって

胸の奥でじんわりと温かく響いてくる。


(美音……やっぱり、あいつなりの応援だったんだな)


陸は小さく呟いた。

誰に聞かせるでもなく、

それでも口にすることで確かめたかった。


拳を握る。

悔しさではなく、もう一度走りたいという衝動。

その指先が、わずかに震えた。


陽菜の涙と、陸の握る拳。

異なる光が、静かに教室の中で呼応していた。


美音は歌い終えたあとも、しばらく教壇に立ったまま目を閉じていた。

彼女の背に、午後の光が差し込む。

オレンジ色の粒が髪の隙間で揺れている。


陽菜の涙。

陸の決意。

それぞれ違う色の光が、静かな教室で呼応する。


美音は歌い終えたあとも教壇に立ったまま、

ゆっくりと目を閉じた。

窓からの光が背に差し込み、髪の隙間に淡い光が踊る。


――「響き合う光」。


それはたぶん、誰かのために灯した想いが、

巡り巡ってまた誰かを照らすということ。


自分の胸の奥で、もうひとつの鼓動が弱くなるのを感じている。

E-COREが、自分から離れようとしている――その感覚。

これが最後になるかもしれない、と頭のどこかが囁いている。


「この歌は、みんなを起こすための歌じゃない。

みんなを生きさせるための、私の最後の歌。」


そう心の中でつぶやく。

誰にも聞かせない、小さな祈り。


もうすぐ、AI美音は回収され、

本体の美音からも“この時間”は抜き取られる。

再び眠りに落ちるか、楽しい記憶を失うか――

どちらにしても、ここにいる“私”は消えていく。


それでも、決意は揺るがない。

「未ON計画」を止めるために。

ここにいる誰かが、未来を取り戻せるように。


美音は目を開ける。

夕陽が、教壇の影を長く伸ばしている。

その光の粒が、クラスのあちこちに散らばって揺れている。

まるで、それぞれの胸に残った小さな光が呼応しているみたいに。


(心の声)

「さよならじゃないよ。

これは、みんなが目を覚ますための始まりだから。」


美音は微笑んだ。

その笑顔の奥に、別れの痛みと未来への希望を抱えながら。


挿絵(By みてみん)

教室に響いた歌は、静寂を破る小さな光となった。

陽菜の涙、陸の決意――それぞれの心に灯った炎は、どんな未来を照らすのか。

美音の祈りが、仲間たちの鼓動を呼び覚ますとき、7日後の運命は変わるのか?

次なる旋律が、希望の光を繋ぐ――。

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