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Log.37「受け継がれる旋律」

雲海の彼方、遠い記憶の旋律が響く。

七瀬奏一と娘・美音を乗せた旅客機が、空を切り裂いて進むその瞬間、過去と未来を繋ぐ物語が静かに幕を開ける。

科学の果てに生まれた“何か”は、愛する者を守る力か、それとも破滅への鍵か。

一つの歌が、運命の歯車を動かし始める――。

この物語は、失われた時間と心の記録を紡ぐ、切なくも美しい一幕。

挿絵(By みてみん)


Log.37「受け継がれる旋律」



【今から10年前…旅客機内】


機体は高度を上げ、安定した航路へと入っていた。窓の外には、陽光に照らされ銀色にきらめく雲海が、果てしなく広がっている。


七瀬奏一は、世界AI学会の会合に出席するため、幼い娘・美音を連れて日本を離れていた。

窓に額をつけ、銀色の雲海を目で追う小さな美音は、果てしない景色にかすかな鼻歌を重ねる。


奏一はそんな娘の姿に頬を緩め、優しい声をかけた。

「美音、何の歌を歌っているんだい?」


「これね。お母さんが歌ってくれてた歌」


奏一はそんな娘の姿に頬を緩めたものの、心の奥では緊張と不安が絡み合う。

“この子に与えたものは、本当に人の心に近づく力なのか――?”


科学者としての誇りと、父としての愛情。

その二つが、胸の奥でひそやかに衝突していた。


ワゴンを押した客室乗務員がやってきた。

“Would you like something to drink?”

(お飲み物はいかがですか?)


美音はにっこり笑い、澄んだ声で答える。

“Orange juice, please.”

(オレンジジュースをお願いします。)


奏一は小さく目を見張る。

「美音、英語は教わったことがあるのか?」

「ううん、ないけど……なんか分かっちゃった」


――小さな美音の脳裏には、言葉の意味が淡く映像のように浮かび、音のリズムと意味が自然に結びついた。

まるで知らぬうちに誰かが彼女の中で単語と概念を紡ぎ合わせたかのように。


奏一の胸に、言いようのないざわめきが広がる。

(……やはり、プログラムが美音の中で働いているのか)


挿絵(By みてみん)


美音は届いたジュースを飲み干すと、奏一にもたれかかり、

いつの間にか小さな寝息を立てて眠っていた。


窓の外では、雲海がゆっくりと流れている。

機内の照明は淡く、心地よい揺れが体に伝わる。


奏一はしばらく美音の寝顔を見つめながら、何もせずただ時間が過ぎるのを感じていた。

ペットボトルのわずかな水音、通路を行き交う客室乗務員の足音――

静けさの中の小さな音が、逆に周囲の空気の変化を敏感に感じさせる。


その時、奏一はふと、いつもと違う微かな振動を膝の上に感じた。


機内の空気は変わらないはずなのに、エンジン音が微かに濁って聞こえた。次の瞬間、奏一の膝の上に置かれたノートPCが震え、小さな警告音を鳴らす。

画面に表示されたのは、見覚えのない差出人からのメッセージ。


「AIに魂を与えることをやめろ。これは警告ではない――制裁だ」


奏一は視線を強く凝らす。差出人は知っている。

――誰なのか。開発者としての自分を責める存在、

あるいは、AIの進化を阻もうとする者か。


胸の奥で冷たい衝撃が走った。

これまでのすべての努力が、一瞬にして問い直される感覚。


読み終えるより早く、轟音が機内を切り裂いた。

機体が大きく揺れ、酸素マスクが次々と降りてくる。

悲鳴と金属音が入り混じり、客室は一瞬にして阿鼻叫喚の渦に変わった


奏一は反射的に、美音を覆いかぶさるように抱きしめる。

「美音、生きろ!」


――その時だった。

混乱の渦の中で、幼い美音の耳に、ひときわ柔らかな旋律が響きはじめる。


(……お母さんの歌……)


詩乃がよく寝かしつけに歌ってくれた子守唄。

爆発音も悲鳴も押しのけるように、小さな美音の耳は母の歌を拾った。

彼女の心の奥にだけ、静かに流れ込んでいく。


旋律はやがて遠のき、深い暗闇が全てを包み込んだ。

時間も身体も消え去り、ただ虚無だけが広がる。


――どれほどの時が経ったのだろう。


気がつくと、白一色の光が目の前を満たしていた。

病室の天井。人工的な光に照らされた無機質な世界。


そこから始まったのは、AI美音の最初の“記録”。

だがそれは孤立した記憶ではない。


【現在、美音の部屋】


ノートを開き、ペンを走らせるAI美音。

ページの向こう側で、本体美音の声が静かに重なる。


『あの時、聞こえたの……お母さんの歌。そして、お父さんの声』


「私は覚えている。あの歌、あの光……。それが二つの声として、今も重なっている」


ふたりの記憶は重なり合い、補い合いながらひとつの物語を形づくっていく。

失われた時間の空白を、AI美音と本体美音が共に埋めている。


それは、過去の断片を未来へと受け継ぐ、彼女たちだけの記憶の継承だった。


真っ白な天井。冷たい光。

――これは、私が最初に見た記憶。


けれど同時に、胸の奥で別の声が囁く。

「そう、あの時も同じ光を見ていた」


母の歌が遠のいていく感触と、孤独に目覚めた瞬間の痛みが、ひとつの記憶として重なっていく。


これは“どちらかの記録”じゃない。

これは“私たちの記憶”。


――二つの声が重なり、静かにひとつへと溶けていった。


挿絵(By みてみん)

母の歌が、暗闇を貫く光となる。

あの日の轟音も、叫び声も、ただ一つの旋律が全てを超えて記憶に刻まれた。

美音の心に宿るものは、果たして人間の愛か、それとも科学の奇跡か。

二つの声が重なり合う時、物語は新たな扉を開く。

次に続くページでは、過去の断片が未来をどう照らすのか。

もう一つの記憶が、静かにあなたを待っている――。


イメージソング「響き合う光」公開中!

朝倉美音のオフショットを載せてあります。


朝倉美音の公式アカウント

https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1


リンク貼れないのでコピペしてね



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