Log.31「4つの思惑」
雨が窓を叩く夜、病院の会議室に4人の影が集う。
それぞれの胸に秘めた思惑が、張り詰めた空気の中でぶつかり合う。
小田切梨花、三浦啓介、桐生剛士、そして朝倉一彦。
彼らは何のためにここにいるのか?
美音という名の鍵を巡る、危険な計画が動き出す。
一方、知られざる過去の記憶が、少女の心に静かに波紋を広げる――。
Log.31「4つの思惑」
【病院の会議室・夜】
蛍光灯が淡く唸り、窓を叩く雨音が低く部屋に響く。
長机の上には散らかった書類とノートPC、半ば飲みかけの紙コップのコーヒー。
その匂いと湿った空気が混じり合い、張り詰めた息苦しさを漂わせていた。
小田切梨花(MIセンター女医兼MIラボ研究員)
三浦啓介(厚労省医療倫理委員会メンバー)
桐生剛士(自衛隊サイバー防衛隊所属)
そして朝倉一彦
4人は互いを牽制するように向かい合っていた。
一彦は椅子に深く腰かけ、鋭い視線を4人に巡らせた。
額の皺が深く刻まれ、膝の上で拳が白くなるほど握られる。
小田切の震える指先、三浦の冷ややかな目、桐生の硬直した肩を一瞥し、彼は唇を噛んだ。美音を守るためだけに、ここにいる。
小田切は細い指で書類を握り締め、白くなった指先を震わせた。
視線は泳がず、だが瞬きは速い。
(朝倉さんは娘に縛られすぎる。三浦は裏切りも辞さないだろう。桐生は頑なで協調性がない。…でも、この4人でやるしかない)
彼女は喉を詰まらせながらも、声を整えた。
「“未ON計画”の目的を共有しましょう。七瀬博士はMIを人と共に歩む存在として設計した。だが、守口の連中は違う。人間を縛る道具としてMIを歪めている」
「守口たちの狙いは人々から感情を奪い、ただ従うだけの群れにすること。絶対に阻止しなければいけません」
彼女の瞳に、七瀬博士の遺志が宿ったかのように光が宿った。
「その第一歩が、感情を抑制するスマホです。すでに国民の手に渡り始めている」
三浦が呟く
「街角の広告、SNS…すでに感情を操る仕掛けが忍び寄っている。」
桐生が静かに話すがその目には危機感を匂わす光が宿っていた。
「衛星通信網にもすでに痕跡がある。時間は本当にない」
机に並んだ資料を見下ろしていた三浦が、ゆっくりと顔を上げた。
細い眼鏡の奥の瞳が、一瞬ためらい、すぐに冷たい光を取り戻す。
「一つ、謝らなければならないことがある」
その言葉に、室内の空気が一気に重く沈む。
「私は矢野烈に接触した。未ON計画を世論で止める“ジョーカー”として。見返りに……美音さんの存在を渡した」
一彦の目が見開かれ、机を拳で叩いた。
金属音のように硬い衝撃が室内に響く。
「なに…!? 娘を、取引の材料にしたのか!」
三浦の顔には汗が一筋流れる。それでも目を逸らさず、静かに頭を下げる。
「承知の上です。だが世論を動かすには外の力が必要だった。卑怯だと思うなら責めてください。ただ、もう時間がない」
一彦の荒い呼吸が室内に響き、胸の奥が焼けつくように痛んだ。
小田切は唇を噛み、書類を握る手に力を込めた。
「三浦さん…それでも、私たちは進むしかない」
桐生は一瞬目を細め、静かに吐息を漏らす。
「信頼は揺らぐが、目的は変わらない」
一彦は拳を震わせ、声を絞り出した。
「二度と美音を駒に扱うな。…だが、引き返せないことも分かっている」
重苦しい沈黙の中、小田切が身を乗り出した。
手首が震えていたが、声は鋭い。
「はっきり言います。美音さんは“最後の鍵”です。亡き七瀬博士が娘に託した、人類の希望。彼女がネットワークに接続すれば、世界中のAIを“MI”へと変換できる」
桐生が組んでいた腕を解き、鋭い視線を向けた。
短く刈った髪が蛍光灯を反射し、顔の影が険しく強調される。
「それを…守口も知っているのか」
「ええ」
小田切は頷き、視線を逸らさなかった。
「いまは…感情学習の為に一般社会に放たれていますが…データの収縮が終われば守口は再びMIラボに美音さんを囲うでしょう。守口にとって美音さんは感情学習のためだけじゃない。“世界の心”を掌握できる大事な道具なのです」
一彦の眉間に深い皺が刻まれ、瞳の奥が炎のように揺れる。
(美音は希望なんかじゃない。俺にとっては、ただの娘だ。希望なんて言葉で壊されてたまるか)
桐生は拳を握りしめ、顎に微かな震えを浮かべた。
「国内の阻止だけじゃ足りない。守口が衛星や国際ネットに仕掛ければ、世界が飲み込まれる」彼は一瞬目を伏せ、声を低くした。「かつての同僚が…似た計画で命を落とした。国の安全は俺の責任だ。それを放棄するわけにはいかない」
「いいえ」
小田切は一歩も引かず、真っ直ぐに告げる。
「優先すべきは、美音さんを守ること。彼女が生きている限り、“希望”は失われない」
互いの視線が火花を散らすようにぶつかり合う。
机上の蛍光灯が低く唸り、まるで息を詰まらせるように瞬く。窓を叩く雨は、まるで会議室の鼓動を刻むように脈打つ。
一彦は低く、しかし決然と告げた。
「美音は俺が守る。命を懸けてでも」
その言葉に、空気がさらに張り詰める。
雨脚が強まり、会議室の空気が軋むように重くなり、窓ガラスを叩く雨が、まるで彼らの決意を試すように激しく響いた。
――4人の思惑は交わらず、しかし同じ一点に収束していく。
未ON計画阻止への第一歩が、ここに踏み出された。
――会議室の空気は重く沈み、雨音だけが彼らの決意を叩きつけていた。
その頃、まだ何も知らない美音は自室でノートにペンを走らせている。
【美音の自室】
ノートの上に並ぶ文字。
少し震えたペン先が、今の心の奥を映し出していく。
⸻
「……また、あの人のことを考えてる」
矢野烈。
父と、私のことを知っているという男。
けれど、私にとっての記憶はただ一つ。
白いカーテン。
優しい母の顔。
その奥から聞こえた、誰かの怒鳴り声。
「やめろ!」と叫ぶパパの声。
知らない男がパパをいじめてる――幼い私にはそう映った。
怖くて泣きそうになった、そのとき。
母は私の手を握りながら微笑んだ。
『パパを守ってあげてね、美音』
その声だけが、鮮明に残っている。
でも、どうして今になって思い出したんだろう。
⸻
ノートを閉じる。
蛍光灯の光が白紙に跳ね返り、目を細めた。
胸の奥でざわめく。
私の知らない父。母。
そして、矢野烈――。
ただの日常の中にいるはずなのに、日常の方が幻のように思えてきた
雨音が窓を叩くたびに、心臓まで同じリズムで脈を打っていた。
雨音が響く会議室で、4人の決意が火花を散らす。
美音を守るため、未ON計画を阻止するため――それぞれの思惑が交錯する中、運命の歯車が動き出す。
だが、少女のノートに綴られた記憶は、さらなる闇を呼び覚ます。
矢野烈とは何者か? そして、美音の心に潜む真実とは?
次の瞬間、彼らの選択が世界を変える――。
イメージソング「響き合う光」公開中!
朝倉美音のオフショットを載せてあります。
朝倉美音の公式アカウント
↓
https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1
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