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Log.29「影を纏う者」

夕暮れのグラウンドに響く歓声。

その温かな空気を裂くように、見知らぬ男が校門前に現れた。

笑みを浮かべながら差し出された一枚の名刺。

その紙のざらつきに、美音はまだ知らない世界の匂いを感じ取っていた。

挿絵(By みてみん)


Log.29「影を纏う者」


秋風が髪を揺らし、枯葉がそっと地面を舞った。

夕暮れのオレンジがグラウンドを包み込んでいる。


サッカー部の紅白戦は、メンバー入りをかけた熱気に満ちていた。

美音はグラウンド脇のベンチに腰かけ、息を殺してその様子をじっと見つめていた。


その美音を、遠くから獲物を測るような視線がじっと観察していた。


しかし、その違和感の存在に美音は気づいていない。

彼女の目に映るのは、相馬陸そうま りく河崎優馬かわさき ゆうまの二人だった。


ひとりで苦しそうにボールを蹴っていた陸はここにはもういない。

(陸と優馬くんの動きは、まるで互いを信じ切った一つの流れのようだ)

美音の口元が僅かに緩んだ。


「陸!」

優馬の声に合わせて、鮮やかなパスが相手ディフェンスを抜けた。

陸は迷わず振り抜き、ボールはネットを揺らす。


陸の軽やかなステップと優馬の鋭いパスが、互いを信じ切った一つの流れを生んだ。


「よしっ!」監督の声が響く。

美音も思わず笑顔になり、手を叩いた。

その瞬間、歓声と秋風が胸の奥に温かく染み込んでいった。


紅白戦が終わり、部員たちは汗をぬぐいながらも満足げにグラウンドを後にした。

茜色の空の下、秋の風が涼やかに吹き抜けた


陸はボールを蹴りながらゆっくり歩く。

(サッカーって、こんなに楽しかったんだ。忘れてたんだな……)

(悔しいけど、やっぱり優馬のおかげだ……)


一方、肩で息をしながら息を整えた優馬は、ふと陸に視線を向ける。

(相馬陸……元ユース出身はダテじゃない。やっぱりすげぇよ、陸……)


尊敬と、ほんの少しの嫉妬が胸の内に混ざり合っていた。


二人は言葉にしなくても、互いの存在を確かめ合うように視線を交わす。

それは確かな“信頼”という名の絆だった。


美音は陸と優馬のふたりを見つめながら、胸の奥にじんわりとした温かい何かが

広がるのを感じていた。


陸の楽しそうな顔、優馬の熱いまなざし――

そのすれ違いながらも重なり合う想いに、心が揺れる。


美音は少しだけ息を呑み、そっと目を細める。


(私も、いつかこんな風に信じ合える誰かと出会えるのかな……)


美音はそっと目を細め、唇の端にかすかな笑みを浮かべた。

小さな願いと期待が、静かに彼女の胸に灯った。


そんな美音を離れた場所から見つめているひとりの男がいた。

フリージャーナリストの矢野烈やの れつ

沈みゆく夕陽を背に、立つその姿は、まるで人の形をした闇のようだ。


「あの子が七瀬美音か……」


矢野の視線は、美音ひとりに向けられていた。


「おいおい、とても死人には見えないじゃないか。

何故、あの子は死んだことになっているんだ?」


矢野は皮肉を含んだ冷ややかに笑みを浮かべて呟いた。



【校門前】


グラウンドを後にし、部員たちが校門へと向かう中、美音、陸、優馬の三人も制服に着替えて歩き出した。


陸「なんで優馬も一緒に帰るんだよ」

優馬「何でって…俺は美音の彼氏だから、一緒に帰るのが自然だろ」

陸「おまえ、告白の返事もらえてないって意味、わかんないのか?」


子どもみたいなふたりのやりとりに挟まれて、美音は笑った。

(理由はわからない…でも、この感じはあたたかい)


美音、陸、優馬の温かい空気を一瞬で切り裂くように、

背後から低く落ち着いた声がかかった。

夕闇が校門の影を濃く染め、秋風が一瞬止んだかのようだった。


「君、七瀬…いや、朝倉美音さんだよね」


黒のレザージャケットに大きめのバックパックを肩にかけた、

無精髭の男――矢野烈だった。


挿絵(By みてみん)


高校生には無縁な風貌の男の出現に三人は身構えた。


陸「美音の知り合いか?」

美音「…ううん…」

優馬「アンタ…一体、美音に何の用なんだ?」


矢野は吸いかけのタバコを指先で軽く弾いて地面に落とし、靴のつま先でサッと踏み消した。そして、軽く手を挙げ、笑みを浮かべて応えた。


「おおっと、ごめん。少年たちには用はないんだ。

“おじさん”が用があるのは美音ちゃんだけなんだよ」


矢野は陸と優馬をあしらうように視線を泳がせる。


「美音ちゃん、君の本当の父親……七瀬さんのことを聞きたくてね」


その言葉に、美音ははっと息を呑んだ。


美音の瞳が一瞬揺れ、遠い記憶が胸の奥でざわめいた。

(美音!生きるんだ!)

真っ黒な闇と轟音の中、父、七瀬奏一の声が響く。


美音の僅かな動揺が彼女の瞳を刺激し悲しい光を放つ

そして同時に目の前の男を観察した。


――声のトーン、目の動き、呼吸の間。

初対面の人間を探るような視線…でも、敵意より先に興味が混ざっている。


矢野は続けた。

「まぁ…今日は挨拶だけにしておこう」


そう言うと、ジャケットの内ポケットから名刺を取り出し、丁寧な仕草で美音に差し出した。だが、その指先には、獲物を引き寄せるような微かな力強さが宿っていた。


美音は一瞬、身構えたがその名刺を受け取り観察分析した。


紙の端はやや擦れ、何度も人の手に渡った跡がある。


――紙の感触には、どこか学校や家とは違う、知らない世界の匂いがした。

――そして、その奥に、まるで何かを追い詰めるような鋭い気配が潜んでいる気がした。

   

「…矢野さん?フリージャーナリスト…?」


矢野はにやりと笑う。


「そう、真実を暴くのが俺の仕事だ」


その瞳に、一瞬、冷たい光が宿った。


「…どんな代償を払ってもな…」


そう呟く矢野の言葉は過去の挫折、後悔、そして覚悟と執着を思わせた。

そして、その笑みは測定できない温度を帯びていた。


警戒する陸と優馬に視線を移し茶化すようにニカっと笑う矢野


「じゃあな、痴話喧嘩の最中に邪魔して悪かったな」


「近いうちにまた会おう、朝倉美音“ちゃん”」


獲物を追い詰めたハンターのような笑みを浮かべた矢野は

夕闇に溶けるように去っていった。


優馬が心配そうに声をかける。

「美音、あの怪しい奴、絶対何か企んでるぞ。どういうことだ?」


陸も眉をひそめて問いかけた。

「美音、大丈夫か?あの男、なんか変だ。…何か知ってるのか?」


美音は戸惑い、肩をすくめて答えた。

「わからない…何がなんだか…」


彼女の指は、名刺の擦れた端を無意識に撫でていた。

そのざらついた感触に、知らない世界への不安と、

父の声を思い出した胸のざわめきが重なった。


深まる夕闇の中、美音の心に信頼の温もりと過去の影が静かに交錯していた。


挿絵(By みてみん)


美音、陸、優馬の三人にはまったく釣り合うことのない存在、矢野烈の登場。

そしてこの男が呟いた“何故、美音は死んだ事になっている?”との謎の言葉。


謎の男の登場で美音の明るい日常が静かにそして確実に大きな闇に飲み込まれて行く…


イメージソング「響き合う光」公開中!

朝倉美音のオフショットを載せてあります。


朝倉美音の公式アカウント

https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1


リンク貼れないのでコピペしてね

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