Log.28「闇に光をあてる者」
街の片隅で交わされた小さなやり取りが、やがて誰かの未来を変える。
それは、夜の静けさに紛れて始まった。
湯気の消えたカップ、交わらない視線、重く沈む沈黙──。
その場にいた者たちはまだ知らない。
手にした情報と、選んだ言葉が、どれほどの光と影を呼び込むのかを。
Log.28「闇に光をあてる者」
【人気のないカフェの奥の個室】
周囲は静まり返り、外の街灯が窓にぼんやり映っている。
テーブルの上には、閉じられたノートPCと、湯気の立たないコーヒーカップ。
小田切は腕時計をちらりと見てから、低い声で切り出す。
小田切(声を潜めて)
「……朝倉さん、政府関係者に信頼できる人物がいます。彼から政府内の情報を流してもらえることになっています」
一彦
「こちらも防衛省サイバー防衛隊の技術者が協力してくれる。七瀬と俺の古い友人だ。信用できる」
小田切はカップの縁を指でなぞりながら、ためらいなく続ける。
小田切
「私が内部データを偽装します。感情値の計測精度を……ほんの数パーセントだけ狂わせれば、制御プログラムは誤作動するはず」
一彦(頷きながら)
「俺はシステム側を改変しておく。感情抑制信号を、逆に“解放信号”として送るように」
一瞬、二人の間に沈黙が落ちる。
遠くで食器の音が響くが、この個室だけは別の世界のように静かだ。
視線は交わらない。だが、その沈黙こそが、過去から積み上げた信頼と同じ覚悟を物語っていた。
【同夜・都内の人気のない公園】
街灯がところどころ切れた歩道。湿った空気が夏の夜を重く包む。
ベンチの端に、眼鏡をかけたスーツ姿の男が座っている──
彼の名前は三浦 啓介
厚労省医療倫理委員会メンバーである。
書類鞄を握る三浦の指が汗ばんでいる。
足音が近づき、暗がりから一人の男が現れる。
黒のレザージャケットに無精ひげ、鋭い目──矢野烈
矢野
「ずいぶん人目を避けたな」
三浦
「……あんたみたいな男と会ってるのがバレたら、私は終わりだ」
矢野(薄く笑う)
「安心しろ。俺と会った奴は、大抵もう名前を出せない」
沈黙。三浦は鞄から封筒を取り出す。
中には、モノクロの監視カメラ写真──白いセーラー服の少女、美音。
そして施設の住所が記された紙。
三浦(低く)
「……この子が、七瀬博士の娘だ」
矢野の目が細くなる。
矢野
「生きてたか……やっぱりな」
三浦
「誤解しないでくれ。私はこの情報で計画を止めたいだけだ。あんたなら世論を動かせる」
矢野(即答)
「俺は止めるために動くんじゃない。暴くために動く」
その言葉に、三浦の眉がわずかに動く。
「……暴いた結果、守れるものもあるはずだ」
矢野は封筒をジャケットの内ポケットに滑り込ませる。
立ち去る前に一度だけ振り返り、街灯に照らされた三浦を見やった。
矢野
「光は、誰を照らすか選べない。……それでも構わないなら」
そのまま背を向け、足音が闇に溶けていく。
(あの“爆弾”はどっちで爆発するのか…これは大きな賭けだ…)
残された三浦の胸中には、不安とわずかな期待がせめぎ合っていた。
⸻
【夜・美音の部屋】
薄暗い部屋の中、デスクの上に開かれたノート。
ページは乱れ、インクが滲む箇所もある。
美音はペンを握り締め、呼吸が少し乱れている。
AI美音(端末から、静かな声で)
「ねぇ、本当に陸に会いたいの?それは…望みなの?」
本体美音はうつむき、言葉が詰まる。
「わからない。わからなくなってる…」
AI美音(少し強く)
「あなたの中の“わからない”は、どこから来るの?」
本体美音は手を震わせてノートの文字を擦り消すように動かす。
「陸が好きなのか、ただの執着なのか…それすら、私には確信がない」
AI美音(優しく、しかし冷静に)
「それは…人間らしい感情。迷い、不安。でも、それを抱えたまま進むのも選択の一つだよ」
しばらくの沈黙。
本体美音が小さく息をつく。
本体美音
「優馬はどうだろう…彼の気持ちも、私には掴めない」
AI美音
「彼はあなたを守ろうとしてる。でも、愛かどうかはまだ、わからない」
本体美音は目を閉じる。
本体美音(震える声で)
「もしも私の感情が本物じゃなかったら? この迷いも嘘なら…」
AI美音(言葉を選びながら)
「感情が“本物”かどうかなんて、誰にもわからない。あなたと私も、同じ感情を持っているのか、わからない」
本体美音はノートにゆっくりと書き加える。
『どちらも失いたくない』
ペン先が紙の繊維を掠めるかすかな擦れ音が、夜の静寂に小さく響いた。
美音は深いため息をつき、窓の外に目を向ける。
遠くの街灯がぼんやりと揺れ、夜風がカーテンを揺らす。
彼女の心にはまだ答えの出ない想いが渦巻いていた。
だが、同じ夜の街の片隅では、別の思惑が静かに動き始めている。
―【老朽化した記者クラブ跡地の一室】
冷たい蛍光灯の下、散乱した資料に目を落とす男、矢野烈
老朽化したビルの一室。蛍光灯が一つ、チカチカと瞬き、
机の上には散乱する新聞の切り抜きと写真。
その中央に、一枚のモノクロ写真──白いセーラー服の少女、美音。
その写真を無造作につまみ上げ、ライターで火をつける男がいた。
燃える炎の向こうに、深い皺と鋭い目が浮かび上がる。
矢野は低く呟く
「七瀬博士……やっぱり、あんたは娘を手放しちゃいなかった」
壁には、MI計画に関するスクラップ記事や、軍事施設の衛星写真が所狭しと貼られている。
赤ペンで大きく書かれた文字──《感情の支配は戦争より恐ろしい》。
「今度こそ、全ての闇に光を当てる」
窓の外、都会のネオンが滲み、雨粒がガラスを伝う。
その背中には、真実のためなら誰も救わない冷徹さが滲んでいた。
美音が確証のない恋心に揺れる時、巨大な闇がいよいよ動き出す
イメージソング「響き合う光」公開中!
朝倉美音のオフショットを載せてあります。
朝倉美音の公式アカウント
↓
https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1
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