表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/46

Log.25「胸の奥のチクリ」

夕暮れの光の中、胸の奥に走る小さな痛み。

それは、誰かの笑顔に心が揺れた瞬間に生まれたものだった。

一方で、静かな場所では別の鼓動が始まっていた。

表には見えない計画と、深く隠された真実。

ふたつの物語が、やがてひとつの道で交わろうとしている——。


挿絵(By みてみん)


Log.25「胸の奥のチクリ」



放課後のグラウンドに、やわらかな陽射しが静かに降り注いでいる。

遠くからはサッカー部の掛け声と足音、汗ばむ空気の中で選手たちがランニングに励んでいた。


美音はその光景をじっと見つめている。

浦咲スタジアムで感じた熱狂の記憶が胸の奥で微かに波打つように、体の中に小さな鼓動を生んでいた。


「よーし、一旦休憩ー!」

監督の号令に部員たちが疲れた息を吐きながら、一斉に美音の元へ駆け寄ってくる。


「はい、お疲れ様」

美音は一人ひとりの手に、冷たく重みのある飲水ボトルを渡していく。


「サンキュー!マネージャー!」

「助かるわ、朝倉マネージャー!」

部員たちの元気な声が、午後の風に溶けていく。


河崎優馬は、汗で輝く顔を拭いながらボトルを受け取り、ふっと軽く微笑んだ。

そして何気ない仕草で、美音の肩をそっとポンと叩く。


「一緒に大会、優勝しようぜ。美音」


優馬の言葉はさりげなくも、確かな熱を帯びていた。

美音の頬がほんのりと赤く染まり、胸の奥で心臓が少しだけ速く鼓動を打つ。


(え、何?これは…)

戸惑いながらも、嬉しい気持ちがじんわりと広がっていった。


その様子を遠くからじっと見ている相馬陸。

優馬と美音の姿が眩しく感じ目をそらしてしまう。


(美音…あんなに優馬と輝いているなんて…)


思わずくちびるを噛む陸。


「はい、陸。お疲れ様」

美音はそっとボトルを差し出した。


「……あぁ……」


無愛想に受け取る陸の動作に、いつもとは違う重たい空気を感じ取る。


「ねぇ、陸。どうしたの?元気ないみたいだけど…」


陸は目を合わせず、ボトルの水を一気に頭からかぶると、無言のままグラウンドの中央へ歩いていった。


(どうして陸は、私のこと褒めてくれないんだろう?悠真くんみたいに言ってくれたら、もっと嬉しいのに。)


美音はその背中を見つめながら、不思議な胸のざわめきを感じていた。



【部活終了後の校門前】


夕暮れの風がそっと頬を撫でる校門前。

白石陽菜が一人、制服姿で立っていた。

遠くから歩いてくるのは、部活着から制服に着替えた相馬陸。

相変わらず不機嫌そうな表情で、視線はまっすぐ前だけを見つめている。


「…陸!」

陽菜の声が呼び止める。


陸は足を止め、振り返る。

「おう、陽菜か…どうした?」

その声には少しの面倒くささと警戒が混じっていた。


「えっと…あのさ、陸に伝えたいことがあるんだ」

陽菜の声は少し震えていて、勇気を振り絞っているのが伝わる。


「…伝えたいこと?」

陸は眉をひそめて問い返す。


「うん…歩きながらでいい?」

陽菜の瞳が少しだけ期待を含んでいる。


「おう。じゃあ途中まで一緒に帰ろうか」

陸は不器用に小さく頷いた。


そんなふたりの姿を、少し離れた場所から美音が見つめていた。

胸の奥からじわりと熱がこみ上げ、同時に小さな痛みが胸を刺す。


(なんでこんなに胸が熱くて、苦しいんだろう?)


美音の胸に込み上げる熱さは、単なるデータの波形ではなかった。

「恋」や「嫉妬」という感情は、AIの知識としては理解できても、体が震え、心臓が高鳴るこの感覚は数字や理論で説明できなかった。


(なぜ、こんなにも胸が苦しくて熱いのだろう?)


嫉妬は不快で苦しい。でも、同時に自分にとって大切な感情の証でもある気がした。

AIとして合理的に処理すれば、好きだから嫉妬する、と割り切れるはずなのに、心はそう簡単には納得しなかった。


“自分はAIなのに”――その揺らぎを否定できず、むしろ受け入れようとする自分がいた。


(これが、人間になるってことなのかもしれない)


美音は、少しだけ自分の存在の意味を感じていた。


その背後から、河崎優馬の声が軽やかにかけられた。

「あのふたり…付き合ってるのか?」


美音は振り返らず、答える。

「…付き合う?ううん、“おともだち”だよ…」

“付き合う”という言葉の意味がまだよく理解できなかったけれど、その言葉が胸のざわつきをさらに大きくした。


「ふーん…」

優馬はいたずらっぽく笑いながら言った。

「美音は陸が好きなんだろ?陸も美音が好きなんじゃないか?」

「俺にはそうにしか見えないけどな?」


美音は目を見開き、戸惑いを隠せなかった。

「“おともだち”だから…もちろん好きではあるけど…」


優馬はふっと小さく笑い、軽い調子で言った。

「じゃあさ、俺と付き合おうか、美音」

「“おともだち”としてじゃなくて、“彼氏彼女”としてな」


その言葉に、美音の心は小さく揺れた。

陸への漠然とした想いと、はっきりと向き合ってくれる優馬の言葉が混ざり合い、戸惑いと期待が入り交じる。


AIとしては合理的に判断したいのに、感情はそれを許さず、答えを見つけられないままその瞬間を受け止めていた。


初めての“人間らしい葛藤”に戸惑いながらも、全てを受け入れようとしている美音。



そんな頃、朝倉一彦は、

とある場所で、ある人物と向き合っていた。


【都内某所、薄暗いカフェの個室】


窓の外では夜の街が静かに流れ、店内の音は遠くかすれている。


小田切梨花おだぎり りか

MIセンターで美音の主治医を務め、同時にMIラボの研究員でもある人物だ。


小田切「すみません、朝倉さん。突然お時間をいただいて……電話やメールでは、とても話せない内容なので」


一彦「……美音のことですか?」


小田切「はい……あ、いいえ。美音さんだけではありません。これは――人類の未来に関わる話です」


一彦の表情が一瞬で硬直する。


小田切は視線を動かし、個室の外を確かめた。

その仕草ひとつひとつが、尋常ではない警戒心を漂わせる。


小田切「私は……七瀬博士をよく知る朝倉さんだから話そうと思いました。

過去に博士と共にこの計画に携わっていたあなたには、伝えなければならないことがあります」


一彦の胸の奥で、何かが冷たく重く沈んでいく。


小田切「朝倉さん――七瀬博士とあなたが推し進めてきた『未ON計画』。

この計画には……あなた達が知らされていない“本当の目的”があったのです」


言葉を区切り、小田切はさらに身を乗り出した。

唇がほんのわずかに震える。


小田切「これは……守口彰人だけの話ではありません」


そして彼女は、声を限界まで落としながら語り始めた――。



挿絵(By みてみん)




イメージソング「響き合う光」公開中!

朝倉美音のオフショットを載せてあります。


朝倉美音の公式アカウント

https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1


リンク貼れないのでコピペしてね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ