Log.24「それぞれの一歩」
日常の中でふと耳に残る旋律。
それは、過去の記憶を揺らし、静かな波紋のように心を広げていく。
同じ時間を過ごす人たちの中にも、それぞれ胸に抱えた思いがあった。
ほんの一歩でも、自分の足で踏み出すとき——
その瞬間は、確かに誰かの心と響き合っている。
Log.24「それぞれの一歩」
―夜・朝倉家キッチン―
綾乃が鍋をかき混ぜながら、小さく鼻歌を口ずさんでいた。
柔らかい三拍子のメロディ。
それは、美音の胸の奥に、懐かしくも正体の分からない震えを呼び起こした。
「…その歌、なに?」
「ん?ああ、これね。あなたのお母さん、詩乃ちゃんがよく歌ってたのよ」
綾乃は笑いながら、味噌汁の味見をする。
「たまにこうして、勝手に口をついちゃうのよね。不思議なもんだわ」
美音は返事をしなかった。
ただ、その旋律が耳の奥で静かに響き続けていた。
(……知ってる。この音)
脳内のどこかで水面が揺れるような感覚が広がった——。
―夜の美音の部屋―
コン、コン…
美音の自室の扉をノックする音
「みおネエ、これ…好きだろ?」
サトシは照れくさそうに青いバニラアイスの箱を差し出した。
美音はにっこりと微笑みながら受け取る。
「ありがとう、サトシ」
ふたりは並んでベッドに座り、ゆっくりとアイスを口に運んだ。
「みおネエに話したいことがあるんだ」
サトシの声は少し震えていた。
「実は…学校で、イジメられてたんだ」
美音は驚かなかった。ただ静かにうなずき、優しくサトシに目線を合わせる。
「夏休み明けから、また少しずつ始まって…でも、みおネエが前に言ってたことがずっと頭に残っててさ」
「感情は隠さずに出したほうがいいって」
「こないだ、とうとう爆発しちゃったんだよね」
アイスの表面をすくいながら、サトシは笑みを浮かべる。
「『俺は弱くなんかねぇ。お前らが悪者にならないように気を使ってただけだ』って言ったら、相手が黙っちゃって」
笑って話すサトシの手は、ほんの少し震えている。
「それからクラスのみんなにも言ったんだ。」
「『無関心、無関係のふりしてるけど、お前ら全員、卑怯で弱虫な共犯者だからな!』ってね」
サトシはふぅっと小さな溜息をつく。
「学校だけが俺の居場所じゃないって思ったら、どうでもよくなった。
そうしたら、なんか気持ちが楽になって言いたいこと全部ぶちまけてやった」
サトシはイジメられた恨みよりも感情を表して言いたいことを吐き出せた自分に誇りを感じているようだった。
そんな晴れやかな表情の陸を見て美音はそっと目を潤ませた。
サトシは照れくさそうに鼻をかき、アイスをもう一口すくった。
その様子を、美音は黙って見守った。
(小さく息を吐きながら、心の中で呟く)
「よかった…サトシが自分の気持ちを出せたんだね。まだ完全じゃないけど、少しずつ前に進んでる」
⸻
―就寝前・美音の部屋―
夕食のあとも、なぜか耳に残っている。
(…あの曲…)
柔らかなメロディが、美音の胸にじんわりと染み込んでいた。
机に座り、ノートを開く。ペンを握ったまま、ふと唇から小さく漏れる。
「…揺れろ…静かな…海のように…unnn……」
その瞬間、ノートのページに淡いインクが走る。
【それ…】
美音は目を瞬かせた。
「え?」
【…それ、なんだか懐かしい】
インクの文字は、一拍置いてから続いた。
【気づいたら、私も…歌ってた】
ページの端に、小さく音符が並ぶ。
人間らしい癖などないはずのAIが、まるで記憶をたどるように――。
(…どうしてAI美音が知ってるの?)
疑問を抱きながらも、答えを求める言葉は喉の奥で溶けていく。
美音はただ、ペンを走らせた。
(…サトシ、自分の力で前に進んだよ)
【よくやったね、サトシ君】
(見守るしかできなかったけど…それでよかったのかな)
【彼が自分で立ち上がるために、あなたがいた。それで十分】
(…そうかな)
【そうだよ。成長は、自分で掴むものだから】
AIの美音と本体の中に潜在する美音
ふたつの美音がノートを介して“おともだち”のように会話する。
⸻
―翌日・学校・休み時間―
教室のドアが開き、河崎優馬がにこやかに顔を出した。
「美音!あ、マネージャー!放課後ミーティングやるから遅れないでよ」
「ついでに陸、お前もだぞ」
ニヤッと笑う優馬に、陸は苦笑混じりに言い返す。
「俺はついでかよ」
「そりゃそうだよ。マネージャーは美音しかいない、サッカー部の宝なんだから。悔しかったら頑張ってレギュラーとって、唯一無二の選手になってくれ」
そう言って優馬は笑いながら教室を後にした。
陸は小さく拳を握りしめてつぶやいた。
「ちぇ。みてろよ優馬!」
胸の奥に、かつてサッカーに燃えていた情熱が戻りつつあることを、陸は静かに喜んでいた。
その様子を見ていた陽菜が美音に駆け寄ってくる。
「何?美音、アンタ、サッカー部入ったの!?しかも陸と一緒になんて…」
美音は少し照れながら答えた。
「入った…と言うか優馬くんに入れさせられた…と言うか…でも自分で決めたのだから入った。んだよね。」
陽菜は眉をひそめて言う。
「何それ?あたし聞いてないんだけど」
芽衣が割って入り呆れながら言う。
「陽菜!なんでそんなことまで美音が陽菜に報告しなきゃならないのよ」
陽菜はもごもごとしながら、陸をチラリと見て言った。
「だって…そうかも知れないけどさ…」
陽菜と一瞬、目が合った陸が静かに陽菜に近づく。
「おい、陽菜」
「え!?はい…」
「俺は夢をもう一度追うことにした。…優馬のおかげでな」
そう言いながら、一瞬だけ美音に視線を送る。
(本当は美音に背中を押されたからだが、口には出せなかった)
「陽菜も諦めるなよ。お前の夢、応援してくれる人はいるぞ」
陽菜は夏休みに行った遊園地のことを思い出し、胸がきゅっとなり目を見開く。
そして言葉を絞らせるように答えた。
「…うん、わかった」
その瞬間、陽菜の心拍数が急に上がった。
美音はAIの感覚で、陽菜の心拍数が12%上昇していることを察知。
(…運動もしてないのに何でだ?原因特定不可)と首を傾げる。
恋愛の機微には鈍感な、美音らしい反応だった。
その横で、芽衣が静かに陽菜の変化を感じ取っていた。
(あー…これは確実に来てるわね)と、心の中で小さく笑う。
美音の母、詩乃の歌う子守唄
今後の展開にどう影響していくのか…
イメージソング「響き合う光」公開中!
朝倉美音のオフショットを載せてあります。
朝倉美音の公式アカウント
↓
https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1
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