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Log.23「心のホイッスルが鳴るとき」

夏の終わりを告げる風が、街のざわめきを優しく撫でていく。

一瞬の静寂の中で、誰かの胸の奥に灯る小さな火種が、やがて大きな光へと変わろうとしていた。


夢と現実の狭間で揺れ動く心たちが、新たな一歩を踏み出すその瞬間。

これは、誰もが胸の奥に秘めた希望と葛藤の物語――。


挿絵(By みてみん)


Log.23「心のホイッスルが鳴るとき」



【放課後のグラウンド】


夏休みが終わり、いつもの高校生活が戻ってきた。

グラウンドの端で、誰もいないゴールに向けてボールを蹴り続ける相馬陸。

美音は少し離れた場所からその動きを静かに見つめていた。


「膝、少し庇ってる。インサイドの蹴り方を浅くしてみて」

美音がそっと助言すると、陸は素直に頷いた。以前のように反抗的な態度はなく、ただ黙って指示を受け入れている。

それは、ふたりの間に芽生えた信頼の証だった。


そんな様子を、フェンスの向こうから観察している男子がいた。

河崎優馬かわさき ゆうま。サッカー部の10番を背負う司令塔。

笑顔は柔らかいが、その瞳の奥はフィールド全体を見渡すように冷静で、油断ならない光を宿している。


(やっぱり、この動きはただ者じゃない)


だが、彼の視線はもう一人の存在にも注がれていた。

ボールに触れず、静かに陸を見守る美音。

彼女の存在が気になり始めていた。


(…この子のことを知りたい)


陸が蹴ったボールがゴールポストに跳ね返り優馬の足下の転がった。


優馬はそのボールを陸に蹴り返し、にこやかに話しかけた。

「相馬くん、シュートのキレが出てきてるな」


一瞬、うんざりした表情の陸

「またお前か…サッカー部には入らないって言ってるだろ」


「君は“高校サッカーは子供の遊びだから入部しない”って先輩たちに言ってたらしいけど、本当は違う。純粋にサッカーがしたいんじゃないのか?」


その言葉は、かつて美音が陸に投げかけた言葉と重なっていた。


更に優馬はチラリと美音に優しい目線を送りながら


「それにさ、うちのサッカー部、マネージャーも探してるんだよね」


「えっと…君は…?」


美音は少し驚きながらも静かに答えた。

「私、美音…朝倉美音です」


優馬は微笑みを浮かべ、柔らかながらも自信に満ちた声で言った。


「朝倉美音さんか。俺は河崎優馬。『優馬』って呼んでくれていいよ。

俺も君のことを『美音』って呼ばせてもらうね」


「美音、どうかな?サッカー部のマネージャーをやってもらいたい。」


あまりにストレートな申し出に、美音は戸惑いながらも、唇に小さな笑みを浮かべる。

「サッカー部のマネージャーか…青春っぽくて、なんか良いね」


表向きは「青春っぽくてなんか良い」と微笑む美音。

そう言いながら、瞳の奥に一瞬だけ無機質な光が宿る。

優馬の間の取り方や視線の動きを、AIとして正確に解析していた。

(この人間は、面白い…)


人間らしい複雑さを持つ彼の言動は、AIである自分にとって未知の世界の扉を叩くようなものだった。


陸は慌てて割って入る。

「おい美音!お前にサッカー部のマネージャーなんて務まるわけないだろ」


優馬は一歩近づき、にやりと笑いながら言った。

「そうだ、美音。連絡先も交換しよう」


「え?あ…はい…」美音は押されながらもスマホを取り出し、連絡先を交換した。


陸は眉をひそめ、声を荒げた。

「ちょっ…河崎!お前、いきなり積極的すぎるぞ」


優馬は余裕の表情で答えた。

「積極的なのは仕方ない。俺のポジションは攻撃的MFだからな。だから…」


優馬は陸の目を見据え、低く言った。

「相馬陸、ストライカーの君を生かせるのは俺しかいないよ」


その言葉は陸の心を深く揺さぶった。

逆に言えば、優馬がいるサッカー部こそが、陸の輝きを取り戻す場所かもしれない――。


陸は本気でサッカー部入部を考え始めていた。


優馬は手応えを感じたような笑みを浮かべ、口調は優しいが鋭い眼光を陸に向けた。


「相馬陸、サッカーが好きならボールさえ蹴ってれば良いだろう。」


優馬は少し間を置いてから、視線を遠くにやりながら続ける。


「だけど、それこそただの球蹴りだ。」


優馬は再び陸の目をじっと見つめた。

「サッカーは仲間がいて、そして相手がいるからこそ楽しいんだよ。」


「“球蹴り”の練習中、邪魔して悪かった。」


「入部の返事は今でなくても良いよ。ただ、この秋に大会がある。もちろんそれに向けて練習試合もある。俺たちのサッカー部は強豪ではないが純粋に皆んなでサッカーを楽しんでるんだ。」


「サッカーを楽しみたいならいつでも大歓迎だよ。」


「美音には今すぐにでも入部してもらいたいけどね(笑)」


そう言い残し、優馬は去っていった。




再びふたりだけになったグラウンド

しばらく沈黙の後、

ゴール前に転がっているボールを拾いながら陸が口開いた。


「俺、不安なんだよ。また皆んなに迷惑をかけてしまうのではないかと…」


陸の脳裏にユース時代の光景がよみがえる。

仲間の笑顔、そして膝を痛めたあの日の悔しさ――。


美音が静かに話す。

「陸、あなたがやりたいのは球蹴りなの?サッカーなの?」

「出来ない理由よりもやりたい理由の方が大事じゃない?」


美音のその言葉に眠っていた自分が叩き起こされた気分だった。


(俺は怪我や過去のトラウマを理由にしてサッカーから逃げてた…)


「陸がサッカーをやりたいなら正直にそう伝えれば良い」


美音は静かに…そして優しく微笑んだ。


陸は何か吹っ切れたような、晴れやかな表情に変わっていた。

そして俯きながら、ためらうように呟いた。

「美音…おまえ、サッカー部のマネージャー…引き受けるのか?」

「…あのさ…美音がサッカー部入るなら、俺も入部しても良いかな…って…」


正直ではない言葉で、正直な気持ちを表す陸。

美音は、その不器用さが愛しくて思わず笑ってしまった。

「陸、サッカーやりなよ」


──なぜ、私は笑えるのだろう。

AIのはずなのに、胸の奥が温かくなる。

今までも、ふとした瞬間にそんな疑問を抱くことがあった。

きっとこれは、この身体の本来の持ち主──本体の美音の、深いところにある意識と私が繋がっているからだ。

理屈じゃない。

感情は、ただ溢れるものだと…その瞬間、確信した。



【サッカー部 部室内】


——それから数日後、陸は不安を抱えながらもサッカー部の部室の扉を開けた。

ユース時代に膝を怪我し、チームに迷惑をかけてしまった過去が胸を締めつける。


部室には優馬はじめ歓迎ムードの部員もいたが冷ややかな視線を向ける部員もいた。

しかし陸は深々と頭を下げて言った。

「…俺も…皆さんと一緒にサッカーをさせて下さい!」


声は震え、膝も少し痛んだ。だが、そこにはユース時代のエースとしてのプライドはもうなかった。

ただ、サッカーがしたい少年の姿があった。


夢や希望は挫折しても終わりじゃない。

姿形を変えてその人の心に永遠に灯り続けるのだ。


傍らで見守っていた美音は、心の中でそっと呟く。

(これが…やりたい理由の顔)


そして——

陸の再試合の始まりを告げるホイッスルが静かに鳴った。


挿絵(By みてみん)


新キャラ登場 

河崎優馬かわさき ゆうま

波乱の幕開け


イメージソング「響き合う光」公開中!

朝倉美音のオフショットを載せてあります。


朝倉美音の公式アカウント

https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1


リンク貼れないのでコピペしてね


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