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Log.18「最後の手紙と子守唄」

―あの日、届かなかった声。

 時を越えて、静かに揺れる鼓動。


美音の知らない“ある記録”が、

誰の記憶にも残っていない“あの夜”を映し出す。

真実は語られないまま、眠りについた想い――

けれど、それは確かに、美音という存在に繋がっていた。


忘れられていた物語が、

静かに、美音を呼び起こす。


挿絵(By みてみん)


Log.18「最後の手紙と子守唄」



美音の記憶にない情報

誰の記録にもない情報


美音本人はまだ知らない…



一彦は満点の星の下、オレンジ色に揺らぐ焚き火を眺めながら

自らの記憶を10年前に戻していた…



【10年前/MIセンター 第3研究棟 機密室】


光を抑えた静寂の中、七瀬奏一ななせ そういちはひとり、透明なホログラムパネルを見つめていた。

青白く浮かび上がるのは、ひとつの脳神経マップ。

対象名:七瀬美音ななせ みおん6歳。


小さな脳の中で微かに点滅する信号。

それはまるで、幼い命の中に灯った微かな“光”のようだった。


「……やっぱり、この子しかいない」

七瀬は自分に言い聞かせるように呟いた。


背後のモニタに、E-COREのシミュレーション結果が並んでいく。

感情反応予測、記憶定着率、共感性パラメータ──

どれも、美音の神経構造と驚異的な適合を示していた。



【研究ログ音声(自動記録)】


「E-CORE Phase0、被験体M01にて稼働開始。

情動反応は、想定以上の“感受性領域”を活性化──

特に『共感』と『同情』に関するシナプス結合が著しい……これは……」


一瞬、録音が止まった。


「……この反応は、もはや模倣ではない。

美音は、“心”を使ってE-COREと交信している──そうとしか思えない」


──録音が再開される。


「E-COREの起動条件は、あえてハードウェア信号ではなく、“音”にした。

美音が幼い頃、毎晩 詩乃が歌っていた子守唄──**『あおいひかり』**だ。


それが、美音の“安心”と“愛”の記憶と結びついていたから。

E-COREに必要なのは、命令ではなく共鳴。

私は信じている。

あの旋律が、彼女の“心”をもう一度目覚めさせる。」



【七瀬博士 私的メモ(手帳記述)】


「AIに感情を持たせたいわけじゃない。

感情の意味を、理解してほしいんだ。


人間の心は、記号じゃない。数式でもない。

曖昧で、不安定で、時に壊れやすい。

だけどそれは、美しく、尊い。


だから私は──

“心を教えるAI”ではなく、“心と育つAI”を、美音の中に宿したんだ」



【記憶断片:事故の前日】


「パパ、明日どこ行くの?」

「学会っていうところ。美音も一緒に行こうか」

「やった!パパとお出かけ、久しぶり〜」


美音は、ぬいぐるみを手渡してきた。

白いうさぎ。両耳が曲がっていて、首に小さなリボンがついている。


「これ、パパの研究室に飾って。わたし、見守ってるから」


「ありがとう、美音……守ってくれて、ありがとうな」



【運命の日】


心を持つ進化したAI、MI(Mind Intelligence)は

将来、人類を支配する恐ろしい存在だと主張する

過激派組織に狙われていた。


──航空機、墜落。

──七瀬博士、死亡確認。

──美音、重度の意識障害。

──E-CORE、微弱ながら生体シンクロ状態で生存確認。



【MIセンター機密記録:プロジェクトMION/停止申請却下】


E-COREは、人工知能を人間と“共に進化させる”という危険な試みだった。

事故後、開発は凍結。関係者の大半は去り、プロジェクトは事実上の封印状態となる。

MI反対派によるテロから避ける為に、美音の生存は社会的に伏せられた。


──生存者0


しかし、秘密裏に研究は進められていた。

MI反対組織を刺激しないように。

表向きはごく普通の医療センター内に、MIラボは構えられた。

事故後の美音は「遷延性意識障害」──

所謂、意識が無く眠った状態のまま、“管理保管”されていた。


音と青い光が眠っている美音を包む……


スピーカーからは、微かに誰かの歌声が流れている。

やさしく、あたたかく、心を撫でるような旋律──


“ねんねん ころりよ あおいそら

ゆめのなかでは パパとママ


ひかり ひかり てのひらに

おやすみ きみの ほほえみへ”


それは、母・七瀬詩乃ななせ しのの歌う

子守唄『あおいひかり』。


その旋律が、美音の脳に刻まれた“愛の記憶”と静かに共鳴する。

まだ意識は眠ったまま──だが、その“心”は、確かに揺れていた。


朝倉一彦あさくら かずひこは、親友・七瀬奏一との約束を守り、

美音を自分の娘として引き取り、”生きた記憶”を守る役割を担った。



【未送信の音声メッセージ】


(博士の遺品の中から再生される記録)


「この記録を、美音が見る日が来るかはわからない。


でも、もし──

君が世界に対して、違和感を抱いたり、自分の存在に迷うことがあったら──

どうか、思い出してほしい。


君の中にあるE-COREは、プログラムじゃない。パパの祈りなんだ。

それは、心を真似るためのAIじゃなく、“心をいっしょに育てていくコア”なんだよ。


それは、誰かを大切に思うこと。

失いたくないと願うこと。


それが、心だ。

それが、人間だよ、美音。


そして──

その歌が君を呼び覚ます時、君はまた、ひとつの“感情”に出会うだろう」



【静止画:うさぎのぬいぐるみ】


場面は研究室の片隅へ戻る。

机の上には、白いうさぎのぬいぐるみが今も静かに佇んでいた。


まるでそこに、美音の“はじまり”が残っているかのように──。



挿絵(By みてみん)


色々な謎が明かされていく…


イメージソング「響き合う光」公開中!

朝倉美音のオフショットを載せてあります。


朝倉美音の公式アカウント

https://www.tiktok.com/@_mion0707?_t=ZS-8yQZYDOfsyG&_r=1


リンク貼れないのでコピペしてね

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