第0章 序章
時は…西暦199年08月09日。
袁紹の異母兄弟である袁術は、
曹操〈正式には後漢王朝最後の皇帝である献帝〈=劉協〉の勅旨〉からの命令を受けた劉備により大敗を喫した。
袁術「朕は皇帝ぞ、何故仲王朝を建国した皇帝が劉備如きに敗れなければならぬー!」
袁術…字は公路。
名門?袁家の正統な後継者であると
高らかに宣言し…後漢王朝の皇帝がいるのに帝を名乗り仲を建国した愚か者で袁紹の異母兄弟である。
ここは、今から2年前の
西暦197年01月01日。
袁術が皆の反対を押し切り建国した仲王朝の首都・寿春に建てられた豪奢な宮殿の中にある後宮。
孫華…今は亡き孫堅の姪で
袁術の皇后として名前ばかりの後宮の女性達を束ねている。字は雪玲。但し2番目の皇后。
孫華「陛下、落ち着いて下さりませ。
あまりお怒りになられてはお身体に障りまする…」
孫華に宥められた袁術は少しだけ
落ち着きを取り戻したものの最早、
袁術だけでは再起を図る事など
不可能だった。
袁術「雪玲、朕と一緒に異母兄弟の袁紹が治める可北の地へ行かぬか?」
こうして袁術は僅かな配下と僅かな食糧、愛する皇后を伴い2年間過ごした豪奢な宮殿と華やか過ぎるくらい華やかだった後宮を後にした。
すると…
孫華「きゃあー!」
何かに取り憑かれでもしたかのように
深紅の色をした彼岸花が袁術一行を引き留めるかのように足元で咲き誇っていた…。
袁術「これは一体何事じゃ?」
さすがに派手好きの袁術でさえも
これには血の気が引いたようでさすがに顔面蒼白状態となった。
それから1週間後の08月16日の事。
僅かしかなかった食糧はもう既に尽き
袁術、孫華、それに僅かしかいなかった配下達は炎天下の中、何とか歩いてはおりましたが歩いていられるのが不思議なくらいの健康状態だった。
すると…
袁術「…朕はもう歩けぬ…。雪玲、
蜂蜜を…飲ませてはくれぬか?」
孫華「…陛下、蜂蜜なぞ我らに買うお金などありませぬ。それにこの年は大規模災害と言っても過言ではない程の干ばつですので雨水すらも…どこを探してもありませぬ…」
袁術「…何だと!?雪玲。
またもやあの華が咲いておる。
斯くなる上は華の蜜でも構わぬ。
飲ませてはくれぬか?」
孫華「きゃあー!」
またしても袁術一行の足元に大量の彼岸花が咲き誇り辺りは紅に染まった。
袁術「…雪梅。」
袁術は誰かの字を呟くと
そのまま息を引き取った。
孫華「…確かその字は…」
孫華は何かを思い出したのか
急に震えだした…。
すると…
劉纖
「…雪梅の命を奪ったのはお前か?」
今まで袁術の配下として袁術と孫華に付き従っていたはずの配下は急に孫華に対して敵意を剥き出しにして…
孫華「きゃあー!」
その命を奪ってしまった…
劉纖「雪梅、仇は…討ったが…
1番の仇はもういない…」
劉纖はそう呟くと
自らの命を自らで絶ち…これにより
袁術が建国した仲王朝は滅亡した。
不可思議な現象ならば他にもあり…
曹操…〈字を孟徳〉は袁術が死んだ事を知らない事もあり曹洪…〈字を子廉〉と夏侯淵…〈字を妙才〉らと共に寿春にある仲王朝の宮殿へと来ていたのだが…
曹操「ふむ、これは一体何事が起きているのか説明できるか?」
またもや宮殿へと続く階段は、
袁術達がこの場を去った時のように
赤い彼岸花が大量に咲き誇っていた。
夏侯淵「こんなに大量だと気味が悪くないですか?俺はこんな不可解で不可思議な現象なんか説明したくないですよ…」
曹洪「確かに気味が悪すぎる…。
この大量の彼岸花は誰が何の為に…」
その異様な光景は宮殿の下にあった古びた井戸から宮殿の階段まで続いていたのである…。
その古びた井戸の前には蜂蜜があり
虫たちが大量発生していた。
曹操「こんなものを供えるのは…
袁術しかおらぬ…。ここは何だ?」
夏侯淵「殿、何だか気味悪いし、
虫まで大量発生で更に気味悪さが増しているから戻りましょうや。」
曹洪「俺も…
今回ばかりは妙才に賛成だな…。」
こうして…
曹操は血の繋がりはないが頼りになり
時々血の気が多いせいで暴走しがちな従弟の曹洪と…
血の繋がりがあり持ち前の明るさと、
曹操への忠誠心と確かな戦の腕前で
頼りになるこちらも従弟の夏侯淵らを伴い許都への道を慌てて戻った。
この不可解を極めたミステリーだが、
曹操の叡智を持ってしても分からず…
真相は約20年くらい闇の中へ置き去りにされていた。
と、言うより…曹操自体が
人妻達を追いかけ回していた事や
劉備や孫堅・孫権父子と勢力争いをしていた事もありそのミステリーを追求する暇がなかったからである。
それなのに…何故
今頃思い出したかと言いますと…
曹操「子桓め、
今思い出しても実に忌々しい…!」
曹操は卞蘡字は…春麗と自身の間に産まれた次男である曹丕…字は子桓との間にある遺恨がありました。
それは…
現在〈=西暦218年03月03日〉から
遡る事約14年前の西暦204年09月15日の事でございました。
今は亡き袁紹…字は本初の忘れ形見である袁尚…字は顕甫が城主を務める鄴城を陥落した時に次男の袁熙…字は小龍と結婚していた甄貴…字は桜綾が傾国の美女と呼ばれる程の美貌だった為狙っていた曹操でしたが
曹丕「父上、私はこの者を妻として迎えます!」
17歳だった曹丕に先を越されてしまい
その事だけは…未だに悔しくて堪らないのでございました。
曹操「子桓の態度を改めさせるには…
アイツが嫌がる背筋の凍るような話をするべきだな…」
お灸を据える…ではなく嫌がらせに限りなく近いような気もしますが…
曹丕「…ゾクッ…」
季節は春なのに寒気を感じて
震え出す曹丕を始めとする曹操の家族とその配偶者達。
夏侯淵「…仲権と凛風、それに子ども達を連れて桃の花を見る。そんな時間、今までなかったなぁ…。仲権はお嬢の隣で花見だろう?」
夏侯覇「…ちょっと待て…親父。
そんな事をしたら俺の命は…ない。
お嬢は殿の孫娘だぞ…」
息子である夏侯覇の恋路を誰より応援している夏侯淵を始めとする配下達…
それと劉藍…字は凛風を始めとする配下達の家族。
それら全ての者達の元へ届けられた
招待状には曹操の住まい兼仕事場である魏王の館…その裏庭にある桃園にて2週間後に曹操主催で行われる花見の案内が記されていた。
曹丕「寒気の正体はもしやこれか?」
曹明…曹洪…字は子廉の娘で絶世の美女と名高く曹丕の側室としていつも傍に控えている。
曹明「魏王に対して無礼ですよ?
それに…きちんと出席しなければ魏王に対して二心ありと思われてしまいますよ…。」
曹丕「確かにそなたの言う通りだ。
子廉の娘にしてはきちんとしていると私は思う。」
…
…
…
曹明「それは我が父に対する侮辱ですよ?子桓様。つかぬことをお伺いしますが我が父が魏王に付き従っているから曹家がここまで来られた事をお忘れになられてはおられませんね?」
曹丕は曹明が段々と自身の母親である卞蘡に似てきた事をこの時はっきりと思い知らされた。
曹丕「えーい、もう良いわ。」
それから2週間が経った
西暦218年03月17日。
曹操「儂が乱世のまっただ中をひたすらに駆ける事が出来たのは皆に出逢えたお陰ぞ…。本日は心ゆくまで楽しんで貰えたら幸いである。」
卞蘡「殿、あまり羽目を外してはなりませぬ…。殿ももう63歳ですから…」
才色兼備で良妻賢母と名高い卞蘡は、
曹操の側室達からも人気が高い。
環晶「卞夫人、この度は…
お目通りが叶い
至極光栄でございまする…。」
環晶…
字は翠蘭
曹操が溺愛していた曹沖を産んだ
曹操にとって最愛の夫人で曹宇の母親でもある。無欲で控えめ、それでいて聡明な子ども達を育てる良妻賢母。
曹宇「父王、彭祖にございまする。久方ぶりにお目通りが叶い至極光栄にございまする…」
曹操に深々と頭を下げるのは…
曹操と環晶の間に産まれた曹宇…
字は彭祖である。
曹操「…子桓とは違いやはり彭祖は、
子の立ち位置と言うのを弁えておる。」
曹宇「…私はまだまだ若輩者でございますので子桓兄上のようには参りませぬ…」
曹宇は書類上、
曹丕の嫡男となっている曹叡…字は元沖より2歳上でこの歳で16歳となっており正室を迎えている…。
張僇「…魏王、お初にお目通りが叶い恐悦至極に存じまする…。我が父を裏切った馬超に必ずや報復を…」
張僇…張魯の娘で
普段は穏やかで控えめなのだが馬超の事になると歯止めが利かず怒り狂うため曹宇の正室ならば問題ないだろうとこの縁組を曹操から推奨された。字は明明
曹操「明明よ、本日は桃の華を愛でる花見の会ぞ…。そなたの父親が馬超から裏切られた事は…知っておるが…今は時期尚早ではないかと儂は思う…。焦っては何も変わらぬ…」
すると…
劉蘭「花見とは久方ぶりにございますね、桃の華を見ていると心が清らかになる気が致します…。」
嫡男である夏侯覇…字は仲権を伴い
夏侯淵の妻の劉藍が曹操の元へ近づいて来た。
曹操「凛風、実に久しいのぅ…。そなたの姉は美人薄命だったがそなたは長生きして本当に良かったのぅ…。」
劉藍は、
曹操にとって最初の正室である劉夫人の妹で夏侯淵の正室に迎えられた。
劉藍「姉は本当に美人で私の自慢でしたが薄命だった事は…とても悲しいです。」
劉藍と曹操が今は亡き劉夫人を偲んでいると想いを忍ばせる事など到底出来ない無邪気な女の子が曹操の元に駆け寄り無邪気な質問をした。
それは…
雹華…
〈=後の曹香
「お祖父様、仲権様と花見に行っても宜しいでしょうか?」
雹華後の曹香…字は万姫。
雹華は幼名で才能豊かな蔡琰…字は文姫の幼名も雹華だった事に肖り名付けられた。曹丕と甄貴…字は桜綾の間に西暦211年に産まれた娘で現在は7歳
無理矢理母親である甄貴と
兄である飛龍のいる鄴城から
5歳の時に引き離された事により
曹丕の言う事を全く聞かない。
聞くのは曹操と曹丕の側室である
曹明の言う事だけである。
それもあるので曹明は、
曹丕の屋敷で雹華の面倒を見るため
一緒に暮らしている。
まさに雹華の育ての母である。
曹操「行っておいで…。それにしても初々しいのぅ…儂の初恋なぞ半世紀も前じゃ…。」
曹丕「雹華、父には何も言わぬのか?
父に対する敬意が足りぬ…」
初恋を思い出してうっとりしている曹操とは違い曹丕は娘の態度に怒りを覚えていた。
曹操「子桓、親というものは離れた木の傍に立ち我が子の成長を見守るのが本来の姿ではないのか…?」
雹華は曹丕の顔を1度も見ず、
夏侯覇と手を繋いだまま曹丕とは離れた木に咲く桃の華を愛でていた。
夏侯淵「…若、子育てに正解はありません。俺も凛風のお陰で可愛い子供達に出逢えて感謝していますし…そもそも殿に仕えながら子供達の子育てを1人でだったら絶対に出来ません。」
曹丕「…私にあの女を許都へ呼び寄せ忌み子と共に暮らせと…?それこそ何の苦役か?私はエリートだぞ…!」
その瞬間、
バチン!
卞蘡「子桓!雹華の前で母親と兄を否定するような言葉を口にしてはなりませぬ!」
卞蘡に頬を叩かれ痛そうに
手で押さえている曹丕を雹華は、
激しく睨みつけていた…。
曹丕「親に対する態度が悪い!
あの女と忌み子のせいか!」
曹丕が何度も口にするあの女とは…
袁紹の次男・袁熙と結婚していた
甄貴…字は桜綾の事。
忌み子とは…
書類上では甄貴と曹丕の子ではあるが
西暦204年09月15日、鄴城陥落の際
甄貴は袁熙の子を懐妊しておりその年末に産まれた子を曹丕は忌み子と呼んで嫌っている。雹華は曹丕の命令により5歳の頃、鄴城から許都へと強引に連れ去られている。
曹操「子桓、子どもはそなたの思い通り動くものではない!斯くなる上は仕置きついでに話してやろう…あの背筋が寒くなる不可解な現象について…」
曹丕「…私はエリートですよ?それしきの事で怯えてはエリートなど務まりませぬ…」
強きな言葉とは裏腹に曹丕の顔は、
顔面蒼白状態となっていた。
それは…
悲しき運命に翻弄された男女と
お馬鹿な自称皇帝が巻き起こした
切ない物語の後起きた不可解過ぎる
サスペンスでございました。