第七話「初めての報酬と、新しい剣」
よもぎちゃんに肩を借りながら、わたしはボロボロの体を引きずって一心流道場へとたどり着いた。門の前で仁王立ちしていたテッサイ師匠は、わたしの姿を見るなり、その厳つい顔をさらに険しくさせた。
「その様は何だ。半人前が、深手を負いおって」
「も、申し訳ありません……。ですが、依頼は……!」
わたしが懐からゴブリンの耳を取り出して見せると、師匠はしばし無言でそれを見つめ、やがて、ふっと息を吐いた。
「……そうか。よく、やった」
ぶっきらぼうだけど、その声には確かな労いがこもっていた。師匠はわたしの手当てをしてくれながら、隣で心配そうにしているよもぎちゃんに目をやった。
「そいつは、ただの毛玉ではないようだな。お前にとって、得難い相棒になるだろう。大事にしろ」
その言葉の真意はわからなかったけど、わたしは力強く頷いた。
翌日。
わたしは師匠に教えられた街の依頼受付所へ向かった。冒険者たちが集うその場所で、ゴブリンの耳をカウンターに置くと、受付のお姉さんが目を丸くした。
「これを、あなたが一人で……? すごいわ! はい、こちらが報酬の500Gです」
手渡されたのは、ずっしりと重い金貨の袋だった。自分の力で、命を懸けて稼いだ初めての大金。わたしは袋を握りしめ、感動で少し震えた。
「よもぎちゃん、行こう!」
わたしが最初に向かったのは、武器屋ではなく市場だった。
果物屋で一番高い木の実と、新鮮なミルクを買う。そして広場のベンチに座り、よもぎちゃんと二人でささやかな祝勝会を開いた。
「きゅいー!」
よもぎちゃんは、甘いミルクを夢中でぺろぺろと舐めている。その幸せそうな姿を見ているだけで、わたしの心も満たされていった。
お腹が満たされた後、わたし達はあの武器屋へと向かった。以前、すごすごと退散した、因縁の場所だ。
だけど、今は違う。
「いらっしゃ……おお、嬢ちゃんか。その剣は……」
強面の店主が、わたしが腰に差した新しい剣に気づいて、少し驚いた顔をした。わたしは堂々と、壁にかかった「ロングソード」を指さす。
「これをください」
「へい、毎度あり! 350Gだ」
まだ高嶺の花だった「鋼の剣」には届かない。でも、道場で借りた古びた鉄の剣とは比べ物にならない、しっかりとした重みと輝き。残ったお金で、少しだけ丈夫な皮の胸当ても買った。
道場に戻り、さっそく新しい剣を構えてみる。
今までよりもずっと手に馴染み、力強く振れる気がした。
ヒュンッ!
風を切る音が、前よりもずっと鋭い。わたしは、確かに強くなっている。
ふと、足元で丸くなっているよもぎちゃんを見た。
(ただの毛玉じゃない……)
テッサイ師匠の言葉が、頭の中で繰り返される。
尻尾の爆発。あの不思議な力。そして、言葉が通じているかのような、この心と心の繋がり。
「よもぎちゃん。君はいったい、何者なんだろうね?」
わたしの問いに、よもぎちゃんは「きゅ?」と首を傾げるだけ。
この世界は、まだまだ謎だらけだ。
強くなること。お金を稼いで、あの黒いビルのてっぺんを目指すこと。
そして、この小さくて、不思議で、誰よりも大切な相棒の秘密を、いつか解き明かすこと。
新しい剣を握りしめ、わたしは胸に宿った新たな決意と共に、未来を見据えた。