【君が世 アナザーストーリー】天高いビルの最後の王
地下での、長く、壮大な戦いを終え、わたし達は地上へと帰還した。
ネオンは地下世界の希望の光となり、ビブラーは人々と共にその世界の再建に尽力している。仲間たちとの別れは寂しかったけれど、わたし達には、まだやらなければならないことがあった。
この世界の「表側」に残された、最後の問題を。
「さて、と」
ナイが、空にそびえる、あの天高いビルを見上げてニヤリと笑った。
「いっちょ、留守中にふんぞり返ってた、大将の顔でも拝みに行くか!」
そう。地下世界を救った今、わたし達は、この世界に来て一番最初の目標だった、あのビルのてっぺんにいるという支配者「れんちくん」を、倒しに行かなければならない。
地下での冒険を経て、比べ物にならないほど強く、逞しくなったわたし達。隣には、もふもふの相棒よもぎちゃんと、何よりも頼りになる、もう一人の相棒ナイ・エージェントがいる。
ビルの中は、相変わらず悪趣味なモンスターと、機械仕掛けの警備兵で満ちていた。しかし、今のわたし達の敵ではなかった。
ナイが罠を解除し、わたしとよもぎちゃんが敵をなぎ倒す。完璧な連携で、わたし達は一度も立ち止まることなく、最上階へと続くエレベーターに乗り込んだ。
チン、と軽い音がして、社長室の扉が開く。
そこにいたのは、以前、わたしがこの世界の法則を教えられた時と、何一つ変わらない光景だった。
豪華な玉座に、深い孤独の影をまとって座る、支配者れんちくん。
そして、その傍らで、魔力の鎖に繋がれ、ぐったりと床に座り込んでいる、一人の老人。
「……!」
わたしは、その老人の顔を見て、息をのんだ。
冒険の、本当に最初の頃。わたしがまだ右も左もわからなかった時、街で出会った、あの怪しいおじいさんだ。
「ワシはな、未来の王になる男」
そう言って、わたしから有り金を巻き上げようとした、あの。
「あの時のおじいさん!?」
わたしの声に、老人はゆっくりと顔を上げた。
「おお……おお、あの時の嬢ちゃんか! そうじゃ、わしは、本物の王じゃ! こやつに国を乗っ取られ、ずっと、ここに囚われておったのじゃ!」
そうか、あの時、彼は嘘を言っていたわけじゃなかったんだ。
「よく来たな。地下でコソコソしていたネズミ共が」
れんちくんが、冷たい声で言った。
「このジジイを助けたければ、その命、ここに置いていくがいい」
「あなたのやり方じゃ、誰も幸せになれない!」
わたしは、地下での冒険を通して手に入れた、本当の強さを胸に、剣を構えた。
「金や力で縛り付けるだけの世界なんて、わたしが、終わらせる!」
最後の戦いが始まった。
れんちくんの力は強大だった。しかし、今のわたし達は、もう、ただの冒険者じゃない。
ナイの変幻自在の攻撃が、れんちくんの防御をこじ開ける。
よもぎちゃんの聖なる爆発が、彼が生み出す悪意のオーラを浄化する。
そして、わたしは、仲間たちが作ってくれた道を、ただ、まっすぐに駆けた。
「終わりだ!」
わたしの一撃が、ついに、れんちくんを捉えた。
彼は、敗北を悟り、どこか救われたような、穏やかな表情で、静かに光の粒子となって消えていった。
「おお……おお……!」
れんちくんが消え、魔力の鎖から解放された王様が、震える声でわたしに感謝する。
しかし、彼の肉体は、長年の幽閉によって、もう限界だった。彼の体が、足元から、少しずつ透き通っていく。
「すまんのう、嬢ちゃん。どうやら、わしは、ここまでのようじゃ。だが……」
王様は、完全に霊体となりながらも、いたずらっぽく笑った。
「これで、わしもようやく自由の身じゃ。これからは、お主の旅を、この目でじっくりと見守らせてはくれんかのう!」
こうして、表の世界の支配は終わりを告げた。
わたしは、ちょっと(いや、かなり)口うるさいけど、なんだかんだで頼りになりそうな、新しい仲間を、一人(と一柱?)加えた。
全ての戦いが終わり、本当の意味で自由になったこの世界。
「さあ、行こうか!」
ナイが笑う。よもぎちゃんが鳴く。王様が頷く。
わたし達の、どこまでも続く冒険の旅が、この青空の下で、今、また新しく始まっていく。