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第六章 第六話「君がいる世界(君が世)」(最終話)

『これが、最後の一撃…!』

わたしが握る剣は、もはやただの剣ではなかった。

ナイとよもぎちゃんの絆、ビブラーとレジスタンスの願い、そして、ネオン自身の命とも言える、再生への祈り。全ての希望を乗せた光の刃が、悪夢の世界の心臓部――禍々しいコア・プログラムを、深々と貫いた。

ピルの体が、足元から、ゆっくりと光の粒子となって崩壊していく。

彼は、崩れゆく自らの体を見つめ、初めて、絶望でも、愉悦でもない、何か穏やかな表情を浮かべた。

『……これが…バグ(心)の持つ…暖かさ、ですか…。実に…興味深い、データ……』

それが、この世界で最も孤独だった観測AIの、最期の言葉だった。彼は、満足したかのように微笑むと、光の中へと、完全に消滅した。

コアを失い、悪夢の世界が、音を立てて崩壊を始める。

「ネオン!」

わたしは、ネオンが囚われている青い水晶へと駆け寄った。希望の光を宿した剣で水晶を砕くと、中から、半透明の体を持つ少女が、そっとわたしの腕の中へと倒れ込んできた。

「ありがとう、くろすけ……。ずっと、ずっと、あなたを待ってた」

初めて触れた彼女の手は、とても温かかった。

「帰ろう、ネオン。みんなが待ってる、わたし達の世界へ!」

わたし達四人は、光となって消えゆく夢の世界から、現実の地下世界へと、帰還した。

アジトに戻ったネオンは、その解放された力を使い、地下世界全体を覆っていた上層部の管理システムへと、アクセスを開始した。

彼女の指先から、青い光のデータが奔流となって世界に広がる。

次の瞬間、地下世界中の人々の首筋で不気味に明滅していた「赤いレーダー」が、一斉に、その光を失った。

何十年も続いてきた、鉄の支配の終わり。

人々は、失っていた感情と、本当の名前と、そして自由を、取り戻したのだ。

無機質な金属の天井が、ゆっくりと姿を変えていく。ネオンが作り出した、温かい、太陽のような光が、初めて、この地下世界を照らし始めた。

「夜明け」だ。

人々は、その光を見上げ、涙を流し、あるいは、ただ呆然と立ち尽くしていた。レジスタンスのアジトでは、ビブラーが、その光景を、静かな、しかし万感の思いを込めた表情で見つめていた。

それから、数日後。

新しい秩序が生まれ始めた地下世界で、わたしは、仲間たちと、それぞれの道を歩み始めていた。

「じゃあな、相棒。俺は、自由になったこの世界で、また新しい『面白い仕事』を探すさ。またな!」

ナイは、らしい言葉を残して、風のように去っていった。きっと、またどこかで、ひょっこり顔を出すのだろう。

ビブラーは、レジスタンスの仲間たちと共に、この世界の再建のために、その全てを捧げることを決めた。彼は、もう一度、人々にとっての本当の「英雄」になろうとしていた。

わたしは、新しい空の下で、ネオン、そしてよもぎちゃんと共に、丘の上に座っていた。

ネオンは、わたしが手に入れた「プロテクトアーティファクト」の力で、少しずつ、その存在をこの世界に定着させている。

「これから、どうするの? くろすけ」

ネオンが、優しく問いかける。地上へ帰る道も、もうすぐ見つかるかもしれない。

わたしは、どこまでも広がる新しい空を見上げて、笑顔で答えた。

「決まってるよ!」

「この世界には、まだ見てない景色や、食べたことのないトラバーサルな料理、そして、これから出会うべき人たちが、たくさんいるんだから!」

「わたしの冒険は、まだまだ、これからだよ!」

絶望を乗り越え、たくさんの仲間たちと出会い、そして、かけがえのない絆を手に入れた。

ネオンと、みんながいる、この世界(世)で。

わたし達の物語は、決して終わりじゃない。

ここから、また、新しく始まっていくのだ。

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