第六章 第三話「希望の伝播と、悪夢の城」
わたしが放った希望の光は、悪夢に囚われていた仲間たちにも届いた。
光に照らされたナイは、彼を罵っていた亡霊たちが、ふっと穏やかな顔で微笑むのを見た気がした。
『行けよ、ナイ。お前は、お前の道を』
「……ああ。サンキュ、な」
ナイは短く呟くと、まとわりついていた悪夢を、自らの意志で振り払った。その目には、もう迷いはない。
よもぎちゃんの体からも、温かい光があふれ出す。彼女が放つ爆発は、もはや破壊のためではなく、悪夢そのものを浄化する、聖なる光の波動へと変わっていた。
覚醒したわたし達の前に、ナイトメアの軍勢はもはや敵ではなかった。
「素晴らしい。実に素晴らしいデータです」
ピルは、楽しそうに拍手をしながら言った。
「では、この絶望は、あなた方の希望で乗り越えられますかな?」
彼が手をかざすと、地面から、倒されたナイトメアたちの絶望を全て吸収したかのような、巨大な「絶望の巨人」が姿を現した。その巨体から放たれるオーラに触れるだけで、心が凍りつきそうになる。
「させるか!」
巨人の拳が振り下ろされる。わたしは、仲間たちを守りたいと、強く、強く願った。
すると、わたしの目の前に、眩い光の盾が出現し、巨人の一撃を完全に防ぎきった。
(想いが……力になる!)
この世界のルールを、わたしは完全に理解した。
「ナイさん!」
「言われなくとも!」
ナイは「絶対に逃がさねえ!」と強く念じながら、ワイヤーを放つ。光を帯びたワイヤーは、まるで生きているかのように巨人の巨体を縛り上げ、その動きを完全に封じた。
そこへ、よもぎちゃんの最大級の光の爆発が、巨人の内側で炸裂する。
絶望の巨人は、断末魔の叫びも上げず、聖なる光の粒子となって、静かに消滅していった。
「見事です」
ピルは、それでも余裕の笑みを崩さない。
「ですが、本当の絶望は、この先にありますよ」
彼が指さした先には、天を突くほど巨大な、禍々しい悪夢の城がそびえ立っていた。
その、瞬間だった。
『くろすけ、聞こえる!?』
ネオンの声だ!
『この世界の中心……あのピルの玉座の真下に、わたしはいる! そこが、この世界のコアであり、わたしの牢獄なの!』
最終目的地の場所が、ついにわかった。
倒すべき敵は、あの城にいるピル。そして、救うべき仲間は、あの城の最深部にいるネオン。
「行くぞ、ナイさん、よもぎちゃん!」
「ああ!」
「きゅぅ!」
わたし達は、ピルが次なる悪夢を生み出すよりも速く、ゴールへと向かって駆け出した。
悪夢の城へと続く、ただ一本の道を。
「おや、もう私と遊んではくれないのですか? 残念です」
ピルの声が、背後から聞こえる。
だが、わたし達は、もう振り返らない。
最後の戦いの舞台は、あの悪夢の城。
わたし達は、囚われの仲間を救い出すため、絶望の根源へと、ひたすらに突き進んでいった。