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第六章 第二話「悪夢の観測者と、希望という名の剣」

ピルが指を鳴らした瞬間、楽園は地獄へと姿を変えた。

「さあ、始めましょう。絶望のデータ収集を」

ピルの冷たい声と同時に、元・住民であった悪夢の怪物「ナイトメア」たちが、一斉にわたし達へと襲いかかってきた。

「キリがねえぞ、こいつら!」

ナイが叫ぶ。剣で斬り伏せ、よもぎちゃんが爆発で吹き飛ばしても、ナイトメアは、まるで地面から湧いてくるかのように、次から次へと現れる。

それどころか、わたし達が焦りや恐怖を感じるたびに、ナイトメアの力は増し、逆にこちらの剣は重くなっていくようだった。

高みの見物を決め込むピルが、愉悦に満ちた声で、この世界の真実を語る。

「無駄ですよ。彼らは、この世界に満ちる『絶望』そのもの。あなた方が絶望すればするほど、彼らはより強く、より完璧なデータとなるのです」

「私の使命は、あなた方のような強い『希望』を持つイレギュラーを、完璧な『絶望』へと堕とし、その過程を観測すること。さあ、もっと見せてください!」

ピルが、再び指を鳴らす。

すると、わたし達の目の前に、それぞれの心の奥底に潜む「悪夢」が、形を持って現れた。

ナイの前には、かつて彼が見捨ててしまったという、軍隊時代の仲間たちの亡霊が。「なぜ俺たちを見捨てた、ナイ!」「この裏切り者め!」という罵声が、彼を苛む。

わたしの前には、人肉宿屋の主人や、カンダタ、そしてオラクルといった、これまで倒してきた敵が現れた。

『お前の正義は偽善だ』『お前は本当に、誰も犠牲にしていないと言えるのか?』

心の奥を見透かすような言葉が、わたしの心を蝕んでいく。

「ぐっ……!」

ナイの動きが鈍り、わたしの剣が揺らぐ。

(だめ……わたしは、間違ってたの……?)

悪夢に心が飲まれかけた、その時だった。

『くろすけ、負けないで!』

ネオンの、澄んだ声が、直接心に響いた。

『それは、ピルが見せている偽物の幻! 夢の世界は、心が現実になる場所なの! あなた自身の心が、この世界で一番強い力を持っているはず! 絶望が怪物を生むのなら、あなたの希望は、奇跡を起こせる!』

そうだ。この世界は、「心」がルールなんだ。

わたしは、目を閉じた。そして、これまでの旅で出会った、たくさんの心を思い出す。テッサイ師匠の厳しさと優しさ。ビブラーの誇り。ミミちゃんの涙と、笑顔。

そして、どんな時も、文句を言いながら隣にいてくれるナイと、ただひたすらにわたしを信じてくれる、よもぎちゃんの温かさ。

「わたしは、一人じゃない……!」

目を開けた、その瞬間。

わたしが握るロングソードが、物理的な鉄の輝きではなく、まばゆいほどの、温かい希望の光を放ち始めた。

「偽物の絶望なんかに、みんなとの絆でできた、わたしの心は、絶対に負けない!!」

わたしは、その光り輝く剣で、わたしを責め立てる敵たちの幻影を、一刀両断にした。

幻は、断末魔の叫びと共に、光の中へと霧散していく。

その光景を、完璧な笑みで眺めていたピルの表情が、初めて、わずかに歪んだ。

「……ほう。これは、計算外のパラメータですね。実に、興味深い」

絶望だけが支配するはずだった悪夢の世界で、たった一つの、しかし何よりも強い希望の光が灯った。

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