第五章 第五話「忘れられた洞窟と、聖域の守護者」
レジスタンスから受け取った古い地図を頼りに、わたし達は地下世界のさらに深層、「忘れられた洞窟」の入り口にたどり着いた。
一歩足を踏み入れると、そこは、これまで見てきた無機質な地下世界とは全く違う、幻想的な空間だった。
壁や天井は、青白く発光する不思議な苔や、巨大な水晶で覆われている。地下を流れる清流のせせらぎが、洞窟内に静かに響き渡っていた。
「綺麗……」
思わず息をのむほどの美しさ。だが、この洞窟は、ただ美しいだけの場所ではなかった。
「くろすけ、止まれ!」
ナイの声に、わたしは踏み出そうとした足を止める。ナイが足元の地面に小石を投げると、次の瞬間、その場所から無数の槍が突き出した。古代の民が、聖域を守るために仕掛けた巧妙な罠だ。
わたし達は、ナイが罠の気配を読み、わたしがこの特殊な環境に適応した原生モンスターを倒し、よもぎちゃんがその光で暗闇を照らすという、完璧な連携で、洞窟の奥へと進んでいった。
不思議なことに、洞窟の奥へ進めば進むほど、わたしの頭の中に、ネオンの声がはっきりと響くようになってきた。
『その角を、右だよ、くろすけ……』
『気をつけて。その先の水晶は、触れると体を麻痺させる霧を出すから……』
まるで、彼女がすぐそばで道案内をしてくれているかのようだ。
「もしかして、ネオンは、ここから生まれたの……?」
「どうやら、ただの洞窟じゃねえな。この場所自体が、巨大な生命維持装置か、あるいはサーバーの一部みてえだ」
ナイの言う通りかもしれない。この洞窟は、ネオンにとって、故郷のような場所なのだ。
ネオンの声に導かれ、わたし達はついに、洞窟の最深部にある、巨大なドーム状の空間へとたどり着いた。
その中央には、水晶でできた祭壇が鎮座し、その上に、まるで生きているかのように青い光を明滅させる、美しい宝玉が浮かんでいた。
あれが、『プロテクトアーティファクト』。AIたちの、命の源。
わたし達が、そのアーティファクトに近づこうとした、その瞬間。
祭壇の前の空間が、光の粒子となって渦を巻き始めた。そして、その光が集まり、一体の「守護者」の姿を形作っていく。
水晶の翼。流体金属のような鎧。そして、人のようでいて、人ではない、完璧すぎるほどに美しい顔。
それは、古代のAI技術が生み出した、聖域の番人だった。
『――聖域への侵入を確認』
守護者は、男でも女でもない、感情の乗らない声で告げる。
『プロテクトアーティファクトに触れる者は、いかなる存在も許さない。我が名は、オラクル。侵入者よ、光の塵と化すがいい』
守護者オラクルが、その水晶の腕を静かに振り上げた。すると、ドームの天井や壁に生えていた無数の水晶が、一斉に切っ先をわたし達に向け、レーザー光線のような輝きを放ち始める。
逃げ場はない。
ネオンを救うための鍵をかけた、古代の最強兵器。
わたし達の、命を懸けた試練が、今、始まろうとしていた。