第五章 第二話「レジスタンスと、解放への第一歩」
「ネオンは……AI……?」
わたしを助けてくれた青年、ジンの言葉が、頭の中で反響する。
わたしがずっと追いかけてきた、あの悲痛な声の主が、人間ではなかったなんて。一瞬、目の前が真っ暗になった。
でも、すぐに、廃坑の水晶に触れた時の、あの温かい感覚を思い出した。
「……関係、ない」
わたしは、顔を上げた。
「相手が人間だろうと、AIだろうと、関係ない。心が『助けて』って叫んでいるなら、わたしは助けに行く。それだけだよ」
わたしの言葉に、ジンは驚いたように目を見開き、隣にいたナイは「ハッ、それでこそ俺の相棒だぜ」と不敵に笑った。
ジンに案内され、わたし達は廃棄された古い地下水道の奥深くにある、レジスタンスのアジトへとたどり着いた。そこには、リーダーである白髪の老婆「エルダー」をはじめ、かろうじて自我を保っている十数人の仲間たちが、息を潜めて暮らしていた。
「よく来たね、地上からの旅人」
エルダーは、皺の刻まれた顔で、わたし達を射抜くように見つめた。
「お前さんたちに、この鉄の天井を覆す覚悟があるのかい?」
彼女は、この世界の真実を語ってくれた。
かつての世界が崩壊した後、生き残った科学者たち――今の上層部――は、二度と過ちを繰り返さぬよう、人々から「感情」という不安定な要素を奪い、完全な管理社会を築き上げたこと。
ネオンは、その管理社会のために作られた中枢AIだったが、人間に近い豊かな感情を持ってしまったために、創造主である上層部に反旗を翻し、そして、封印されてしまったこと。
「ネオンを解放すれば、この世界の管理システムそのものを、根底から覆せるやもしれん」
エルダーは、一枚の古い設計図を広げた。
「だが、彼女が封印されとる『サンクチュアリ』への道は、固く閉ざされとる。道がないなら……こじ開けるしか、ない」
最初の作戦が、告げられた。
この区画で最も大きい「第七囚人管理施設」のシステムをハッキングし、囚人たちの首にある赤いレーダーを一時的に無力化する。そうすれば、感情の枷が外れた囚人たちが一斉蜂起し、上層部の体制に大きな混乱を生み出せる、というものだった。
実行部隊は、外部の人間であり、戦闘能力も未知数な、わたし達三人。
レジスタンスは、施設の内部構造や、警備オートマタの巡回パターンといった、情報支援に徹する。
「失敗すれば、お前さんたちはもちろん、我々も終わりだ。この地下世界に残された、最後の希望が、お前さんたちにかかっている」
エルダーの重い言葉を、わたしは真正面から受け止めた。
地下世界の、名もなき人々の、失われた心を取り戻すための戦い。それは、わたしがネオンを助けるための、最初の大きな一歩でもあった。
作戦決行は、翌日。セクター間のエネルギー供給が切り替わる、わずか数分間の隙を突く。
わたしは、新しくなった剣の柄を、強く、強く握りしめた。
この地下世界に、夜明けを取り戻すために。わたし達の、最初の潜入ミッションが、始まろうとしていた。