第四章 第一話「夢の超特急と、運命のディナー」
「ポォォーーーッ!」
遠くから聞こえた優しい汽笛に導かれ、わたし達はジャンクションの中央駅へと駆け込んだ。
ホームには、先ほど幻のように目撃した、あの列車が停車していた。金と漆で彩られた車体は七色の光を放ち、まるで生きているかのように、静かにわたし達を待っている。
「お待ちしておりました。龍神様のお墨付きを得た、幸運なお客様」
いつの間にか、わたしの目の前には、シルクハットに燕尾服というクラシカルな装いの、狐のお面をつけた車掌が立っていた。
「さあ、ご乗車くださいませ」
恭しく差し出された白い手袋。わたし達が乗り込むのを確認すると、ミミちゃんの首にかけられたお守りが、黄金色の光を放って、まるで改札を通るようにチリンと鳴った。
一歩、列車に足を踏み入れた瞬間、わたしは息をのんだ。
外見からは想像もつかない、豪華絢爛な空間。ふかふかの絨毯が敷かれた床、アンティークの調度品、そして壁には美しい絵画が飾られている。まるで、走る高級ホテルだ。
わたし達は、広々としたコンパートメントに通された。
やがて、列車はごく静かに動き出す。しかし、窓の外に流れるのは、見慣れたジャンクションの街並みではなかった。どこまでも続く満天の星空と、オーロラのように揺らめく美しい星雲。わたし達は、夜空そのものを旅しているかのようだった。
「わぁ……! きれい……!」
ミミちゃんは窓に顔をくっつけて、目をきらきらと輝かせている。
「……とんでもねえ列車だな。裏の情報網にも、こいつの正体は載ってなかったぜ」
ナイですら、呆気にとられたように呟いた。
しばらくして、ディナーの案内が来た。わたし達が食堂車へ向かうと、コック帽を被った恰幅のいいシェフが、にこやかに出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。お客様の魂が、今、最も求める一皿をご用意いたしました」
運ばれてきた料理は、まさに魔法のようだった。
ミミちゃんの前には、星屑が溶け込んだみたいにキラキラ光る、栄養満点のスープ。
ナイの前には、彼のスリルを求める心を映したかのような、絶妙にスパイシーな「サラマンダーのグリル」。
そして、わたしの前には――見覚えのないはずなのに、なぜか懐かしい、「おばあちゃんのシチュー」とでも呼びたくなるような、温かい一皿が置かれた。
「おいしい!」
ミミちゃんの満面の笑みが、食堂車をぱっと明るくする。その笑顔に、これまでの苦労がすべて報われた気がした。
食事の終わり、あの狐面の車掌が、わたし達のテーブルへとやってきた。
「皆様、旅の始まりはいかがでしょうか」
穏やかな声で、彼は言った。
「この福々超特急は、ただ目的地へ行くだけではございません。お客様の『宿命』の駅へと、停車いたします」
そして、車掌は狐の面越しに、わたしの目をじっと見つめた。
「お客様の魂は、龍の住処よりもさらに深い場所……あるいは、忘れ去られた『地下の世界』への扉を探しておられるご様子。この旅が、その答えに繋がりますよう、心よりお祈りしております」
その言葉に、わたしはハッとした。
この列車は、ミミちゃんを助けるためだけじゃない。廃坑で聞いた、あの声。わたし自身の運命を追うための旅でもあるんだ。
豪華で、少し不気味で、そして希望に満ちた鉄道の旅。
わたし達の本当の運命を乗せて、福々超特急は、星々の間を走り抜けていく。