第三章 第二話「巨大市場の捜索と、ドブネズミの尻尾」
わたし達は、ミミちゃんと名乗ったその少女を連れて、ジャンクションでも最大の規模を誇る「中央市場」へと向かった。
活気という言葉では生ぬるいほどの喧騒。無数の屋台、山と積まれた商品、そして、ごった返す人々。この中から、たった一つのお守りを見つけ出すのは、砂漠で一粒のダイヤを探すようなものだ。
「ミミちゃん、どのあたりで転んじゃったか、覚えてる?」
「えっと……大きくて、赤い果物を売ってるお店の前だったと、思う……」
ミミちゃんの曖昧な記憶を頼りに、わたし達は聞き込みを始めた。しかし、人の流れが激しい市場では、誰も小さな女の子が転んだことなど覚えてはいなかった。
「くそっ、正攻法じゃラチがあかねえ」
ナイはそう吐き捨てると、「俺は裏から探る。嬢ちゃんたちは、引き続き聞き込みを頼む」と言い残し、人混みの中へと消えていった。
わたしとミミちゃんが聞き込みを続ける一方、よもぎちゃんはその小さな体を活かして、屋台の下や商品の隙間をくまなく探してくれていた。
一時間が過ぎ、捜索が完全に行き詰まった頃、ナイが戻ってきた。その表情は、険しい。
「見つかったのか?」
「いや、だが手がかりは掴んだ。市場の情報屋に聞いたら、ビンゴだ。『ドブネズミ団』ってチンピラ共が、龍の彫られた綺麗な首飾りを自慢してたらしい」
ドブネズミ団。市場を根城に、スリや置き引きを繰り返すゴロツキ集団だ。
お守りは、無くしたんじゃなく、盗まれていたんだ。
真実を知り、ミミちゃんの目に再び涙が浮かぶ。わたしはその小さな肩を抱きしめた。
「大丈夫。わたしが、必ず取り返してあげるから」
ナイの情報をもとに、わたし達はドブネズミ団のアジトだという、市場の奥にある廃棄物処理場へと向かった。
中では、十人ほどのゴロツキたちが、盗品を前に下品な笑い声を上げている。
「あなた達ですね! ミミちゃんのお守りを返しなさい!」
わたしが剣を抜くと、ゴロツキたちは一斉に武器を構えた。
「なんだぁ、このチビ共は!」
「痛い目に遭わせてやれ!」
数の上では圧倒的に不利。だが、わたし達はもはや、ただの素人じゃない。
ナイがゴロツキたちの足元にワイヤーを張り巡らせ、数人を一気に転ばせる。よもぎちゃんが彼らの頭上で威嚇の爆発を起こし、動きを止める。そして、混乱の渦の中心にいるリーダー格の男の前に、わたしが躍り出た。
「観念しなさい!」
わたしの剣が、リーダーの喉元に突きつけられる。勝負は、一瞬で決まった。
「わ、悪かった! 許してくれ!」
リーダーは震えながら白状した。
「お、お守りなら、もうここにはねえ! あまりに見事な細工だったから、市場の西にある『カンダタ質店』に売っちまったんだ!」
それを聞いたナイの顔が、さっと曇った。
「『カンダタ質店』だと……? あの、血も涙もない強欲爺さんの店か。厄介なことになったな」
その質屋は、一度手に入れた品物は、どんな手を使っても絶対に手放さないことで有名な、裏社会御用達の悪徳な店なのだという。
お守りの行方はわかった。だけど、問題はただのチンピラから、もっとずっと厄介な相手へと移ってしまった。
「質屋……。行きましょう。そして、お守りを取り返しましょう!」
わたしは、ミミちゃんの手を強く握りしめ、臆することなく宣言した。
次なる相手は、金の亡者。一筋縄ではいかない交渉が、始まろうとしていた。