第二章 第六話「反撃の狼煙と、ウィローの投げ縄」
ドタドタと階段を駆け下りてくる宿主たちの足音。焦るわたしの目の前で、よもぎちゃんの放った最後の一撃が、ついに牢屋の錠前を粉砕した!
「ナイス、よもぎちゃん!」
宿主たちが地下牢になだれ込んでくるのと、わたしが牢から飛び出すのは、ほぼ同時だった。
「なっ!?」
驚く手下の一人の足を、わたしは道場で鍛えた体さばきで払い、転倒させる。すかさず、よもぎちゃんが閃光弾のようなまばゆい爆発を起こし、残りの手下たちの目を眩ませた。
「今のうちに!」
わたしはその隙を見逃さず、地下牢の隅にあった看守室へと駆け込んだ。あった! わたしのロングソードと、装備一式!
剣を握りしめた瞬間、全身に力がみなぎる。もう、わたしは無力な囚人じゃない。
「さあ、第二ラウンドだ!」
反撃の狼煙が上がった。一心流の鋭い剣技で、わたしは次々と手下たちを打ち倒していく。峰打ちで気絶させているから、命までは奪わない。
その間、よもぎちゃんが他の牢の鍵を的確に爆破し、囚われていた人々を解放していく。
「動ける人は戦って! 動けない人は、今のうちに地上へ!」
わたしの声に、絶望していた人々にも生気が戻る。数人の屈強な冒険者が、落ちていた棍棒などを手に、加勢してくれた。形勢は、完全に逆転した。
手下たちを無力化し、地上へと続く階段を駆け上がる。その中腹で、あの男が待っていた。
二本の肉切り包丁を両手に構え、狂気の笑みを浮かべた宿主が、立ちふさがっていた。
「ああ、素晴らしい! なんて素晴らしい食材なんだ! 久しぶりだよ、こんなに歯ごたえのあるディナーは!」
変則的で、肉を解体するかのような素早い包丁さばきが、わたしを襲う。一筋縄ではいかない。だけど、今のわたしは一人じゃない!
「よもぎちゃん、右!」
わたしの声に、よもぎちゃんが宿主の右足元で爆発を起こす。体勢が崩れたその一瞬の隙を、わたしは見逃さない。
渾身の一閃が、宿主の構える二本の包丁を、甲高い音と共に弾き飛ばした。
「そ、そんな……わたしの、ディナーが……」
戦意を喪失し、崩れ落ちる宿主。その腰に下げられていた、奇妙な装飾の施された投げ縄が、ふとわたしの目に入った。手にとってみると、ずっしりと重く、不思議な力が宿っているのを感じる。
夜が明け始めた頃、解放された人々の通報で、ウィローの街の衛兵たちが駆けつけてきた。美しい観光地の裏で長年行われていた、おぞましい事件の全貌が、ついに明らかになったのだ。
わたしは、街を救った英雄として、衛兵から丁重な感謝と共に、特別報酬金5,000Gを受け取った。所持金は、合計35,000G。福々超特急への道が、また少し近づいた。
悪夢のような一夜は、終わった。
しかし、朝日に照らされる美しい湖を見つめながら、わたしは考えていた。この世界の輝く光のすぐ隣には、こんなにも深く、暗い闇が広がっている。
手にした奇妙な投げ縄を握りしめ、わたしはこの世界で生きていくことの重みを、改めて噛みしめていた。