第二章 第一話「中継都市と、福々超特急の噂」
一心流道場を旅立ってから、数週間が過ぎた。
わたしとよもぎちゃんは、いくつかの村や街を渡り歩いていた。目的はただ一つ、あの廃坑で聞いた、謎の声の主を探し出すこと。
手がかりは、あまりにも少ない。「青い水晶」と「機械音」、そしてわたしの脳裏に焼き付いた機械的な都市のイメージ。行く先々の街で聞き込みを続けたけれど、得られるのは「そんな話は聞いたことがない」という言葉ばかりだった。
それでも、わたしは諦めなかった。
あの「たすけて」という声が、今も耳に残っているから。わたしを呼んだ誰かを助けるまで、この旅は終われない。
そんなある日、わたし達は今まで見たこともないほど巨大な街にたどり着いた。
空にはいくつもの蒸気の煙が立ち上り、石造りの巨大な駅舎を中心に、碁盤の目のように街が広がっている。様々な服装や種族の人々が行き交い、その活気と喧騒に、わたしは思わず目を丸くした。
「すごい……! ここが、中継都市『ジャンクション』……!」
ここは、大陸中を結ぶ鉄道網の心臓部。ここに来れば、何か新しい情報が得られるかもしれない。わたしは期待を胸に、街の冒険者ギルドへと向かった。しかし、結果はいつもと同じだった。
「青い水晶? 機巧の民? 嬢ちゃん、そりゃおとぎ話の世界だぜ」
ギルドの酒場で、ベテラン冒険者たちに一笑に付され、わたしはがっくりと肩を落とした。
(やっぱり、ここでもダメなのかな……)
途方に暮れてテーブルに突っ伏していると、不意に、向かいの席からしわがれた声が聞こえた。
「嬢ちゃん、『大地の記憶』を探しておるのかね? ならば、普通の道を探しても、一生見つからんぞい」
顔を上げると、旅慣れた風の老人が、意味深な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「どういうことですか?」
「この世界にはな、表の道と、裏の道がある。嬢ちゃんが探しているような『おとぎ話』は、裏の道を通らねば、決して辿り着けんのじゃ」
老人は、この街の自慢である巨大な駅舎を指さした。
「あの駅にはな、ごく稀に、伝説の列車が現れる。『福々超特急』じゃ」
「ふくふく……ちょうとっきゅう?」
「うむ。それはただの列車ではない。時に世界の理を超え、龍の住処や、忘れ去られた古代文明の入り口へも旅人を運ぶという、気まぐれな魔法の列車よ。乗るためには、莫大な金か、あるいは『福々大神』のご機嫌を損ねぬだけの、とびっきりの幸運が必要になるがな」
老人は「龍は、古き民のことも知っているやもしれんぞ」と謎めいた言葉を残し、人混みの中へと消えていった。
――福々超特急。
それが、わたしの進むべき道標だ。わたしは直感した。
すぐさま駅の窓口へ走り、乗車券について尋ねる。しかし、返ってきた答えに、わたしは眩暈がしそうになった。
「福々超特急の片道乗車券は、一枚、100,000Gとなっております」
「じゅ、10万!?」
今のわたしには、到底払える額じゃない。
でも、ここで諦めるわけにはいかない。道は、見えたのだから。
「わかった! 稼いでやる! 10万G、絶対に稼いで、あの列車に乗ってやる!」
わたしはギルドの依頼掲示板へと駆け戻った。
この活気に満ちた中継都市ジャンクションで、わたしの新たな目標に向けた挑戦が始まる。隣で、よもぎちゃんも「きゅ!」と力強い声を上げた。
途方もない金額。だけど、不思議と心は燃えていた。
あの声の主に辿り着くためなら、どんな依頼だってこなしてみせる。