第７話
沈黙が、揺れた。
“それ”は確かに崩れ落ちたはずの肉体──グロウルの残骸の奥から波のように広がる、しかし“波”ではない何かだった。
「……千早」
炎架が名を呼ぶ。わずかに顔をしかめながら、手にした刀を“納められず”にいた。
柊は、口を開かない。
倒れてなどいない。だが今、彼はその場に静止する以外の選択を持たなかった。
だからこそ。
この“場の異常”に、最も適応できるのは──
解析術士 芹沢 千早 だった。
千早は、左手首に巻いていた情報固定式の術式帯を解くと、その糸状の魔力構文を宙に浮かべた。
彼女が契約している精霊の名は、コルヌテラム。
地脈を読み、魔力の性質や構造を量子レベルで分解／解析できる「特性」を持つ。
「距離、2.6メートル。干渉範囲、直径4.2m……」
目を閉じ、思考を“構造の位相”へ落とす。
彼女の術式は、言語ではなく数式だった。
──術式演算型：第五系統【定量式空間演算術】
──術式名：《コーデックス・パルス》
「展開開始。ノード接続数：19。基底位相：-π/2。初期干渉律：e⁻³」
精霊と完全契約を結んだ「術者」には、契約精霊を通じて付与された「異能」を扱うことができる。
この異能と呼称されるものがいわゆる「特性」であり、術式の解放段階、構築強度によって展開できる「量子間エネルギー＝律契」が付与される。
この状態の時、術者は術式を通じて精霊の構造そのものを“展開“し、行使する。
この時の展開場を精霊波と呼び、リズ・フィールドを構築後初めて術者と精霊との間に双方向通信が成立する。
そして、術者の精神構造と精霊の情報パターン（波形）が一定値以上の同期率(共鳴率)に達することで、より強力な術式場を展開することができるようになる。
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■ 基本カテゴリ：大分類
【カテゴリ名／説明／備考】
□ 精霊系（アリシア系統） ／ 精霊との契約によって自然属性を操る ／ 精霊との親和・感情同調が要。自然魔法学派で主流
□ 機械系（メカニア系統） ／ 魔導AIや演算装置とリンクして能力を引き出す ／ 計算式と数理最適化による術式展開
□ 超越系（特異系統） ／ 精霊でも機械でもない、純粋な異能素質 ／ 非契約型。原因は遺伝・禁術・覚醒事故など
□ 混成系（融合派系統） ／ 上記を複合し、相互運用するハイブリッド型 ／ 数は少ない。差別対象になりやすい
■ 系統分類：中分類（系統・系列）
【系統名／概要／主な属性傾向／代表例（応用能力）】
□ 放出系 ／ エネルギー・属性を“外部へ解放”する系統 ／ 炎、雷、光、音 ／ 爆破術・閃撃斬・音波衝撃波
□ 操作系 ／ 精霊や装置を“制御・指揮”する能力 ／ 木、金属、傀儡 ／ 精霊使役・念糸操作・義手制御
□ 変化系 ／ 特定属性を別性質に“転換”する ／ 氷、水、風 ／ 熱→冷気・液体化・陽炎変換
□ 補助系 ／ 状態異常・治癒・強化など“支援系”能力 ／ 風、光、木、聖 ／ 回復霊波・速度補正・視界強化
□ 幻術系 ／ 感覚操作や精神誘導を中心とする ／ 闇、風、水 ／ 幻視生成・幻聴波・感情誘導
□ 特異系 ／ 分類不能な“変則”能力。契約対象が不明な場合も ／ 時間、空間、因果 ／ 加速領域・時凍結・確率収束
■ 属性・媒体との関連性
【属性／媒体精霊／備考・異能傾向】
□ 炎属性 ／ 辰（竜） ／ 爆発・灼熱・加速。放出系・変化系に多く、攻撃力最上位。例：「赫焉ノ契」「灼閃術式」
□ 水 ／ 亥（水猪） ／ 流動・反射・治癒。変化系・補助系。感情との同調に長ける。
□ 雷 ／ 申（雷猿） ／ 電撃・演算・感応。操作系・放出系。スピードと連携に秀でる。
□ 氷 ／ 子（氷鼠） ／ 冷却・静止・時限。変化系・幻術系。時間操作の資質を持つ者も。
□ 草（木） ／ 未（花羊） ／ 再生・吸収・捕縛。補助・幻術・癒し系。精霊の聖域との親和高し。
□ 風 ／ 酉（風鶏） ／ 加速・飛翔・撹乱。操作・補助・幻術系。詠唱速度や機動戦向き。
□ 岩（土） ／ 丑（岩牛） ／ 防御・硬化・重圧。操作・放出系。耐久型戦士に多い。
□ 音 ／ 午（音馬） ／ 音波・干渉・錯覚。幻術・操作系。精神感応能力と連携する例あり。
□ 光 ／ 寅（光虎） ／ 閃光・加速・浄化。補助・放出・特異系。聖属性と接続しやすい。
□ 闇 ／ 戌（影犬） ／ 影・吸収・幻視。幻術・操作・超越系。精神干渉との相性高。
□ 聖 ／ 卯（聖兎） ／ 浄化・再生・防護。補助・変化・超越系。光・草とよく融合。
□ 魔 ／ 巳 （魔蛇）／ 侵蝕・呪詛・禁忌。特異・禁術系。聖属性と正反対の立場にある
■ 媒体精霊の特徴と契約様式
【媒体精霊／精霊の性質／契約方式／備考】
□ 辰（炎竜） ／ 感情と激発力の化身 ／ 血契または戦闘契約 ／ 強大な代償を伴う。反抗的で支配不能な場合あり。
□ 亥（水猪） ／ 豊穣と浄化の象徴 ／ 慈愛契約 ／ 再生や浄化術式に向く。
□ 申（雷猿） ／ 情報と速度の象徴 ／ 機械連携型 or 精神接続契約 ／ 機械魔導と自然魔法の接点にもなりやすい。
□ 子（氷鼠） ／ 沈黙と記憶の支配者 ／ 氷印契約 ／ 時間干渉術への適性あり。
□ 未（花羊） ／ 生命と植物の調和者 ／ 息吹契約 ／ 精神共鳴で花開く「律動型」契約。
□ 酉（風鶏） ／ 嵐を駆ける舞士 ／ 舞印契約 ／ 呼吸・律動との同調により発現。
□ 丑（岩牛） ／ 大地の秩序と剛力 ／ 印押契約 ／ 動かぬ守護の象徴。
□ 午（音馬） ／ 音楽と幻声の支配者 ／ 音律契約 ／ 特定周波数と同調した時に初契約可能。
□ 寅（光虎／魔虎） ／ “正義”と“悪意”の両極 ／ 覚醒契約 ／ 契約者の信念によって顕現が変化。
□ 戌（影犬） ／ 忠義と執着の影霊 ／ 影縛契約 ／ 忠実だが、闇の制御が困難。
□ 卯（聖兎） ／ 治癒と希望の象徴 ／ 祝印契約 ／ 聖域生成や祝福魔法に関与。
□ 巳（蛇） ／ 禁呪・侵蝕・変異・進化 ／ 蛇環契約（特異霊縛） ／ 契約者の“深層衝動”に応じて姿を変える。鏡写しの自我として現れる精霊も存在する。しばしば魔属性・闇属性と共鳴。
■ 媒体干支 ≠ 精霊の外見・個性
この世界における「干支媒体」は、あくまで“霊的系譜”や“起源となる象徴”を示す分類概念であり、実際に召喚・契約される精霊の姿、性格、生態系は一律ではない。
・媒体精霊の象徴動物（例：竜、蛇、兎など）は“魔力血統”や“契約コードの起点”を意味するにすぎず、
→ 現出する精霊の姿形、性格、サイズ、性質は個体差・属性融合・契約者の精神状態に大きく影響される。
・精霊の姿は：
- 人型（人外風／少年少女／守護者風）
- 幻獣型（ケモノ／龍蛇／鳥／混成体）
- 抽象型（光の玉／影／記号体／言語の塊）
など多岐にわたり、契約者にだけ本来の姿が“知覚可能”となる場合もある。
■ 属性ごとの代表的な精霊 × 契約者キャラクター
以下は「属性 × 精霊個体 × 干支媒体 × 契約者」という4層構造で構成される例たちである
【炎属性 × 辰（竜）】
・精霊名：ヴォルグ＝イグニス（Volgr=Ignis）
古代灼熱霊。獣のような四肢と翼を持つが、頭部は仮面に覆われた人型で、喋るたびに空間が焦げる。
かつて神の火を盗んだ“反逆の火竜”と伝わる存在。
・契約者：火乃森 炎架
→ 詳細は先述の通り。元SS等級、現在E等級。血契破棄後も残滓が彼女に宿っている。
【水属性 × 亥（水猪）】
・精霊名：ミリュナ＝セルヴィーナ（Miruna=Selveena）
巨大な水蛇の姿だが、感情と共に“女性の声”と“母性の姿”へ変わる。癒しと破壊の二面性を持つ。
・契約者：アーシェ＝リュミエール
→ 水・風の二属性を操る。現在はA等級。慈愛に満ちた精霊との関係は非常に安定している。
【雷属性 × 申（雷猿）】
・精霊名：ザイフ＝デンドロ（Xayph=Dendro）
金属と雷で構成された“無言の機械霊”。姿は猿に似るが四肢が多く、演算処理時には光球体に変化。
・契約者：十倉 紅刃
→ 雷と斬撃を融合させた術式を展開。ザイフとは戦場で意志共有するレベルの高速思考接続を持つ。
【氷属性 × 子（氷鼠）】
・精霊名：ネヴィ＝クラスタ（Nevi=Krasta）
ガラスの仮面をつけた子どもの姿。感情が希薄で、契約者に静謐と破滅を与える。氷の時限式を操る。
・契約者：銀瀬 悠夜
→ 氷と時間遅延術式を併用。ネヴィとは“共に壊れていく関係”を自認している。
【草属性 × 未（花羊）】
・精霊名：ファリ＝エルナ（Fari=Erna）
大きな花を背負った幼女の姿をしているが、実体は植物の情報集合体。笑顔で自然を喰らう。
・契約者：？？？
→ 癒し・再生・繁殖系能力を持ち、禁忌に踏み込む可能性がある。
【風属性 × 酉（風鶏）】
・精霊名：オルティナ＝ヴェロス（Ortina=Verros）
羽ばたくたびに空間を切り裂く“羽の風”。人型ではなく純粋な羽根の集合体。詩を囁く。
・契約者：アーシェ＝リュミエール（風属性側）
→ 水と風の併合型。戦闘時には風を通して癒しと防御を並列使用する。
【光属性 × 寅（光虎）】
・精霊名：リュミエル＝ディアソル（Lumiere=Diasol）
聖なる光の中に浮かぶ獅子の面影を持つ人影。見る者によって姿が変わる。
・契約者：副学園長リク＝フォルセリア
→ 光と聖のダブル契約者。信仰と権力を融合した象徴的存在。
【闇属性 × 戌（影犬）】
・精霊名：エグリ＝ルフナ（Eglly=Rufuna）
影でできた犬のような獣。だが、契約者の影から生えた「裏人格」として機能することもある。
・契約者：？？？
→ 操作・幻術・精神侵蝕に優れる。契約者が精神を制御できないと“乗っ取られる”。
【魔属性 × 巳（蛇）】
・精霊名：ヴァシリア＝ネムロア（Vasilia=Nemroa）
無数の蛇が織り成す“女性の仮面をかぶった存在”。嘘と言葉で世界を書き換える禁呪の担い手。
・契約者：？？？
→ 精霊を“論理記号”として操る異常な魔術形式。高リスク高出力。
