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第1話



「うわ、マジで来たぞ……火乃森だ……!」


「え、うそ……。あの“灼熱の契約者”、ホントに戻ってきたの!?」


「ていうか制服、アレ……新入生カラーじゃん。まさかの……E等級?」


朝の登校ラッシュ。中央学術街・第十三通学エリア。

ユグドミレニア学園都市の東ゲートに広がるざわついた空気の中心には、一人の少女がいた。


「……ふん」


制服のリボンは緩め、上着は肩にひっかけるだけ。

髪は相変わらず、火の粉が絡んだような癖っ毛ミディアム。琥珀色の瞳が、やや不機嫌に空を見ている。


火乃森 炎架ほのか


かつて“自然魔法派の至宝”とまで呼ばれた天才術者にして、元・SS等級。

今は、どう見ても最底辺のE等級生徒証をぶら下げている。


「マジだったんだな……あの事件で契約精霊、失ったって……」

「ていうか、なにその余裕の登校スタイル。あれ絶対反省してない」

「いや……むしろ怖すぎて逆に直視できないんだが……」


教室前、靴箱、通学階段。

どこを通っても“視線”が集まり、“距離”が生まれる。

だが炎架は、ひとつも気にした様子を見せない。


「このくらい、想定内」


つぶやき、かかとの高いスニーカーで階段を一段跳びに上がる。

その背に、どこか「燃え残り」のような余韻が漂っていた。


 

「あ、あの……えっと……火乃森さんですよね?」


校舎に入って最初に話しかけてきたのは、

――体格ちっちゃめ、前髪ぱっつん、水色の髪がよく目立つ一年生の女の子だった。


「先輩、わたし、精霊研究科のロゼリアって言います! えっと、その……すごく、尊敬してて、あの、握手していただけたり……っ!」


「……」


見上げる後輩の目はキラキラしている。ファンクラブの“生き残り”だろうか。

が、炎架はポケットに手を突っ込んだまま、ちょっとだけ視線を逸らして――


「……そーゆーのは、SS等級の人たちに頼んな」


ポツリとそう返すと、振り返りもせずに通り過ぎる。


ロゼリアは「あっ……」と声を漏らしたまま、しばらく動けなかった。


 


「うーっす、お姫様。E組のプリンセス様じゃないッスか」


そして次の瞬間、上から聞こえてきたのは、妙に挑発的な声。


見上げれば――階段の踊り場に、銀髪のピアス女が仁王立ちしていた。

肌は褐色、制服はバッチリ着こなし、階級バッジは堂々の“B”。


「……十倉、あんたまだBなんだ?」


「おおっと、口の悪さは据え置きっスね。けどご安心を。今日でAまで昇格予定ッスから」


「……へぇ」


火乃森 炎架、思わず口の端が上がる。


「だったら、記念にE等級とちょっと手合わせでもどう?」


「……やっべ、挑発受け取っちまったッス。あー、周りのモブどもが息止まったッスよ、ほら」


ざわっ。


ユグドミレニア学園第七校舎、その外廊下にいた生徒たちが、一斉に息を飲んだ。


元・SS等級と現・B等級の喧嘩勃発。しかも開幕10分。


 

「別に、力の証明とかじゃないよ。ただ――」


彼女は、夕焼けみたいな笑みを浮かべた。


「……“燃やしたい相手”が、ちょうどそこに立ってるだけ」




「じゃあさ、十倉。私の“今の火”――どこまで通用するか、試してよ」


「いいッスよ。そっちがその気なら、全力で“炙られ役”やってやりますよ。元SS様」


 二人の間に、ちり、と火花のような空気が散る。

その瞬間、ユグドミレニア学園の公式交戦ルールが発動する。



 《注意:構内術式展開検知。簡易試練リズ・フレイム認定──観戦モードへ移行します》



廊下の端にある魔導端末が光り、周囲の生徒たちは数歩引いた。

床面には、戦闘用の精霊式バリアが自動で展開される。


 

「《起動:斬電式フラグメントNo.7──サンダークレスト》!」


十倉紅刃が先手を取る。手元のグローブから放たれた青白い紋章が、空中に奔った。

バチバチと雷の鞭が枝分かれして炎架へと襲いかかる。


「さあ来い火乃森、昔みたいに“燃やせる”もんなら!」


「……ふぅん、意外と成長してんじゃん」


炎架はその雷撃を、ほとんど動かず見送った。

すれすれで交わしたかに見えたが――次の瞬間、彼女の足元から熱気が立ち昇る。


「《……展開式、開示。残炎詠唱、第三律まで》」


誰にも聞こえない程度の囁き。けれど、そこには確かな精霊語の断片が混じっていた。


 ──そして。


「《焔式:赫焉ノかくえんのけい》──第一環だけで十分だよ」


彼女の右手が、焦げた空気を引き裂くように振り下ろされる。


ドンッ!!!


床を伝って爆ぜる熱波。炎ではない、“熱そのもの”が雷撃を吹き飛ばした。

余波だけで、周囲の生徒たちの制服がふわりと揺れた。


「え……今の、未契約状態じゃ……?」


「精霊を失った」と噂されていたはずの火乃森炎架が、術式を展開している。

契約精霊ナシで“赫焉ノ契”を発動できる者なんて、普通は存在しない。


「バリア……バリアが焼かれた……っ」


観戦していた生徒の一人が青ざめる。精霊式障壁は、公式戦にも耐えるほどの強度を誇るはずだ。


それが、第一環だけで貫通しかけている。


 

「──やべえよ……火乃森、やっぱバケモンだ……」


「燃えてない火が、あんなに熱いってどういう理屈だよ……」



再び、ざわつく廊下。


だが炎架本人は、力を誇るでもなく、ただ左手をそっと胸に当てていた。


 

(……やっぱり、いない)


炎も、声も、鼓動も、あの精霊の温度が返ってこない。

この力はただの残響。かつて彼と“完全に繋がっていた”頃の癖で、使えてしまうだけのもの。


(でも、今、ちょっとだけ……)


ほんの一瞬――どこかで、小さな“声”を聞いた気がした。


『……ホ……ノカ……』


「…………っ」


心臓が、ドクンと跳ねた。


誰もいないはずの精神領域の底。そこに、火の精霊“ヴォルグ”の記憶の残骸が、確かに“揺れていた”。




「……やっべ、まだ鼓膜がビリビリする……」


「っつーか、あれ第一環だろ? マジで手加減してなかったら、焼け焦げてたのアタシじゃん……」


十倉紅刃は肩を回しながら苦笑した。

皮肉っぽい顔に隠しきれない――けれど確かな、敬意の色。


「ま、さすがは“赤の悪魔”様。E等級でもその辺のAよりよっぽどヤバいっスわ」


「……“赤の悪魔”とか、誰が言い出したのよ」


「あんたが火吹いたら、三階まで丸焼きになった事件のときッスよ。ほら、あの壁まだ焦げてんの見えるでしょ」


「………………忘れてよそれ」


 

騒ぎの後、簡易査問委員の術者が駆けつけ、二人は“警告処分”を受けただけで済んだ。

あくまで術式試練内の交戦として“ギリ合法”だったからだ。


「まあ、アレだ。派手な帰還祝いってことで、お疲れさん」


十倉はそう言って、手を軽く挙げて去っていった。


 

校舎裏、夕暮れ色が差し込む中庭。

ベンチに座る炎架の隣に、静かに誰かが腰を下ろす。


「……やっぱり戻ってきてくれて、嬉しいです」


声をかけたのは、整った銀縁メガネに風になびくミント色の髪――アーシェ=リュミエールだった。


「心配してたんですよ、ずっと。……精霊とのことも、炎架先輩のことも」


「……大丈夫よ。まだ、ちゃんと“燃えてる”から」


ふわっと風が吹き抜けた。

遠くの校舎では、精霊の小さな灯火が窓辺を跳ねている。


「それにしても、“声”、聞こえたんですよね?」


「……うん。ほんの一瞬、ね」


「なら、きっと――精霊界(リズ=セラフィア)との繋がりが、また動き出してるんです」


アーシェは言う。

最近、学内では“無属性精霊の暴走報告”が相次いでいるのだと。


「まるで……精霊界のバランスが、少しずつ歪み始めてるみたいなんです」


「――まさか、また?」


「ええ。“あの事件”のときのように」


 

炎架の喉が、わずかに鳴った。

かつて自分が、すべてを“手放すきっかけ”となった、あの契約事故。


それが、何かに繋がっているとすれば――


 

(だったら……やるしかないじゃない)

 


目を伏せていた彼女が、ゆっくりと立ち上がる。

夕陽を背に、その癖っ毛が赤く揺れる。


「“火の音”が、また聴こえるなら――

 私の炎は、まだ止まってなんかない」


少女の“再起”は、始まったばかり。


だがその頃、学園都市の遥か地下深く。

未登録の精霊式が“異常活性”を示しているという、極秘のアラートが点灯していた――。


 



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十倉とくら) 紅刃くれは)


──銀髪のピアス女、火乃森炎架の腐れ縁にして“戦場型バディ”



▼ 基本プロフィール


【項目/内容】

□ 所属 - 機械魔導派メカニア/B等級

□ 年齢/学年 - 16歳・高等部2年(炎架と同学年)

□ 能力系統 - 電磁演算術式(雷×斬撃)

□ 精霊契約 - ザイフ=デンドロ(Xayph=Dendro)

□ 身長/体型 - 167cm・スレンダー筋肉質/八頭身モデル体型

□ 服装 - 制服をスタイリッシュに着こなす派。パンツスタイル+黒のフレームグラス(伊達)もたまに



▼ 外見・ビジュアル


・長めの銀髪ポニーテールを高めに結っており、額にはスリット入りのヘアバンド。

・片耳に十字架型の黒ピアス、反対には無線式イヤーピース。

・やや吊り目で、目つきは鋭いがふとした瞬間に“年相応の優しさ”が滲む。



▼ 口調・性格


・口は悪いが、論理的で“自分の力と他人の才能”をちゃんと認めるタイプ。

・炎架にはよくツッコミを入れ、軽口を叩くが、内心はかなり心配している。

・言葉遣い:

 「~ッス」「マジでやばいっスよ」「ちょい待ちッス先輩、それ死亡フラグってやつッスよ」

 など、体育会系&軽快ギャル口調。



▼ 立ち位置・物語での役割


・元・実戦訓練パートナー。炎架がSS時代に何度も“模擬戦”で対峙し、唯一まともに反撃した経験あり。

・炎架の過去の事件の真相に、何か“外部の情報”を握っているが黙っている節がある。

・基本的にバトルの際は最前線で活躍するタイプ。「殴れる参謀」。





■ アーシェ=リュミエール


──風の精霊と共に歩む、慈しみの術者。炎架の“静かな光”



▼ 基本プロフィール


【項目/内容】

□ 所属 - 自然魔法派アリシア/A等級

□ 年齢/学年 - 15歳・高等部1年(飛び級で入学)

□ 能力系統 - 風・癒し系/感応術式と空間補助術に長ける

□ 精霊契約 - ミリュナ=セルヴィーナ(Miruna=Selveena)/オルティナ=ヴェロス(Ortina=Verros)

□ 身長/体型 - 158cm・華奢だが姿勢がよく、所作が綺麗



▼ 外見・ビジュアル


・肩甲骨あたりまでのミントグリーンのサラ髪。風でふわりとなびく印象。

・制服はきっちり着こなすが、白いカーディガンを羽織っていることが多い。

・首元には精霊から贈られた“風の鈴”のペンダント。音色は術式の安定に役立つ。



▼ 口調・性格


・落ち着いた敬語メイン。「〜です」「〜でしょうか?」など丁寧語+やわらかさ。

・誰に対しても平等な態度で接し、“傷ついた者の心”にとても敏感。

・ただし、感情が高ぶると逆に冷静になり、「静かに怒る」タイプ。



▼ 立ち位置・物語での役割


・炎架が“唯一避けられない相手”。自分の過去を知っていながら、責めずに向き合ってくれる。

・戦闘では中距離サポートや感応補助術で支援。ときに術式“翻訳”も担当。

・精霊界との繋がりが深く、“精霊界の門を視認できる”という特異体質を所持している





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