90.トップスピード
結論、俺のトップスピードの飛行は竜族といえども失神する模様。
まだ5歳児だからかな?ちょっとビリーヤで試してみよう。
「みんな、二人をどこかで寝かせてあげて。スピードで目をまわしちゃったみたい!」と別荘の管理人に言って俺は折り返す。
こちらに向かって来ていたビリーヤを見つけて、問答無用で魔法で浮かせて、拉致。
速さ自慢のサンダードラゴンだが、日に日にトップスピードを更新している今の俺の速さには耐性がなかったようだ。
気絶こそはしなかったものの、地面に降り立つときに少々ふらついていた。何とか持ち直して、
「我が君、何事か、起こりましたか?」と聞いてくる。
急に超特急で連れてこられるほどの大事件があったと思って、構えてくれていたようだ。
「なんにもないよ。マックもアルムスも意識が保てなかったから、大人の竜族なら大丈夫かな?と思って実験してみただけ。ビリーヤは大丈夫だったね。大人はいけそうだね」
「……どうでしょうか?おそらく、サンダードラゴンの黒角がギリギリラインといったところかと。それもこれ以上スピードアップされると無理な気がします。緊急事態に呼び寄せるときは、現地に到着したときに役に立てるように、意識がある状態で運んでいただけると助かります」
「そうだね。気を付けるよ」
どうやら、俺の輸送は竜族に対しても万能ではないようだ。楽しい旅も現地に到着するたびに死屍累々では話にならない。
そんなドタバタなスタートを迎えた、西の別荘だが、外観は黒龍城に似ている。領内の最も高い山の上に天を衝くように聳え立つ、ミニ黒龍城。高いところが大好きなサンダードラゴンっぽい。
前世であれば、まさに雷に打たれそうな立地だと尻込みしただろう。
お披露目の日は、領内のドラゴンが城の周りをぐるぐる飛び回り歓迎の咆哮をしてくれた。ちょっと恥ずかしかったけど、頑張ってバルコニーでお手振りもした。
山頂って色味が薄暗い感じ。靄もかかっていて、山肌もグレーか黒。
そんな中に、ド派手な黄色とオレンジのミニ黒龍城。それを中心に、黄色とオレンジのサンダードラゴンが渦を巻く様子は、一種異様な光景だった。
水墨画に原色のヒマワリって感じ。うん。わびさびは感じないかな。
でも、歓迎の気持ちは確かに伝わった。高いところが好きなサンダードラゴンにとって、領内一高い山は神聖なものだったろう。そこを俺にと明け渡してくれたのだから。
「場所の選定に時間がかかってたけど、この場所に建てて本当に良かったの?大事な場所だったんでしょ?」と西の領主に聞くと、
「場所がもめたのは、この山と、この場所が美しく見える向かいの山とどちらがいいかということでして。ここは大切な場所ですが、見晴らしに関しては高いというだけで特筆するものがございません。ですが、向かいの山ですと、我々のシンボルと言えるこの山が綺麗に見えるベストスポットがあるのです」と言われた。
ふむふむなるほど。乗り鉄か撮り鉄か的な奴かな?
ほどなくマックとアルムスが、「失礼しました」と詫びながら居間に入室してきた。
「全然かまわないよ。ビリーヤでも少しふらついていたから、5歳児じゃ仕方ないよ」と慰めた。
ビリーヤが情けない顔をして暴露した俺を横目で見てくる。言わなきゃよかったかな。
名誉回復してあげようと、ビリーヤの格好いいエピソードを探したけど、ちょっとすぐには思い出せなくて、居間に沈黙が漂った。
本当にごめんね。




