88.すくすく
俺の、成長しないという大事件。
俺たちの結論は、姿を変える魔法は、その有り様を変えるもので、非常に負担が大きいのではないかということでまとまった。
俺は生まれたばかりの頃から、人型の方がいいと、しかも赤ちゃんじゃ都合が悪いと2歳児相当の大きさに無理やり変身していた。その反動というか、副作用が、成長しない体なのではという推察からだ。
この推察を裏付けるために、しばらくはドラゴンで居続けなければいけない。食事とかするのは、人型のほうが断然好きなのに仕方ない。
まあ、初等園に行けばみんなドラゴンなので違和感はないが、大きさがなぁ。みんなすくすく育っちゃってさぁ。軽く1メートルは超えている。俺の倍以上だ!
給食もガツガツ食べる。アルムスが好きでよく食べるというマンゴーみたいな果物も持ってきてもらって食べる。アルムスはひと際大きいので、あやかるつもりだ。鰯の頭も信心から、なんでも試してみようじゃないか!
初等園に通い始めると、黒の森を使いたいとか、側近たちも含めて演習をしたいとか、なにかと俺に依頼がくるのが面倒だが、楽しそうなものは全部許可している。
というのも、俺に直接依頼にくるのって結構怖いとおもうんだよねぇ。それをおして来るんだよ。頑張ったで賞扱いで大盤振る舞いしている。
そうこうしているうちに2歳の誕生日を迎えた。竜族は二千歳も生きるためか、誕生日を祝う習慣はない。10歳前後で人型になれた時には、盛大にお披露目をするらしいけど、俺はすでに生まれてすぐ人型になれているし、生また時から王様なんで、戴冠式ってものもない。
というわけで、俺が大々的に主役を張るイベントってものがないんだよね。いいことだ。
結婚式ってのも主役を張るイベントだろうけど、俺の場合それもなさそうなのがなぁ。生態からして別物って感じだからさ。
それはさておき、クラスメイトは5歳になってどんどん逞しくなっていく。人型になるまでのあと5年で、成人のドラゴンの姿の半分、5メートルくらいまで大きくなるんだから、あと3メートルちょっと成長する訳だ。そりゃすくすく成長しないと間に合わないわな。
初等園でも、5,6,7年生はかなり大きな体育館みたいなところが教室として割り当てられている。
でも、俺たちのクラスは、例年より人数が多いので、高学年になったら、それでもキツキツになるかもしれないとヤノス先生は頭を抱えている。
普通なら、仕方ないから押し込んでおけってなるんだろうけど、西と東の領主の息子に加えて、俺が不定期だとしても生徒として在籍しているから悩ましいんだろう。申し訳ない。
「修復班に大規模魔法使ってもらおうね。いつでも声かけてね」と言うと、
「行政府とは、なあなあにならないように気を付けていますから、職員でなんとかします」ときた。あれま、仲が悪そうだ。
ティルマイルが、言いにくそうに、
「学園と行政府は優秀な人員を確保するのにいつも争っていますから」と教えてくれた。どうやら、宰相府と軍府に主だった優秀な者は根こそぎ持っていかれて、行政府の役人と学園の教師は、残り物がなる職業というレッテルが貼られがちなんだとか。なんとも失礼なことだ。
そして、その残り物同士、仲が悪いのか。最下位争いのデッドヒート。不毛だな。
「個人個人で接しても、優秀じゃない人なんていないと思うけどなぁ」とぼやくと、
「皆、黒角ですよ元より無能な者などおりません」とキッパリ言われた。
それなら、ますます不毛だ。




