77.ムリゲー
信者さんたちの件は結局大事になることもなく、宗教関係者にだけ事実が伝えられ、神の戒めとして語られることになった。
が、俺は納得いかない。
あんな攻撃じゃ死なないよ、死なないけど、他人から普通の人なら死ぬような攻撃をされることなんてないよね。ビビるよね。トラウマものだよね。
それなのに、俺が攻撃されそうになったところを颯爽と現れた神がお助けになって、不心得者を成敗なさった的なお話になっているんだ。納得いく訳ない。俺、攻撃されたし。成敗したのはどっちかっていうと、側近たちだし。
神の英雄譚で、きれいにまとまっているからいいのか?ぐぬぬぬぬぬ。
そんな消化不良な俺を、ルドルは優しく、
「まあまあ、結果、黒龍王は神の絶対的な後ろ盾を持っていると周知できたのですから、良しとしましょう」と慰めてくれた。
ルドル~。大好きだよ~。
さて、そんなルドルの研究だが、行き詰っている。
魔力飴の研究だ。誰かの魔力を飴に蓄積して、さらにそれを摂取した人が、その魔力を行使できる、という所が目標だ。
前に研究所にいたときは、魔力を液体に蓄積させることは出来たようだ。だが、すぐに飲まなければ効果がなく、飴という形にして保存がきくようにしたら、魔力の保存もきくのではと実験をしている最中だったようだ。
今回は、俺が、飴にこれでもかって魔力を詰めたからか、ひと月ほどたっても魔力はまだ飴に保持されている。
だが、俺の桁外れの魔力がこもった飴を人族が食べたらどうなるのか、考えるのも怖いです。とルドルに言われ、ただの飾りになっている。
竜族についで魔力のあるといわれる妖精族にも頼んで魔力を注入してもらっているが、もって15分ってところ。これでは実用できない。
人族が火をつける魔法を欲していて飴を要求したとしても、15分しか消費期限がないなら、その飴に魔力を注入してくれる魔力持ちに、その場で火をつけてもらえばいいわけだもん。
俺の飴が食べられれば解決なんだけどなぁ。こっそりモックに食べさせてみる?何かあれば即治癒魔法をかければよくないかな?即死以外なら人族でもいけるはず。
そんなことをぼやいていると、ティルマイルに、
「ルドルさんは、その、即死の可能性があるから許可しないのではなかろうかと……」と言われてしまった。なるほど、あきらめるか。
「でもなぁ。矛盾してるんだもん。強大な魔力以外では蓄積されず、蓄積出来る魔力は強大過ぎて摂取できない。だよ。ムリゲーだ!」
と叫んだ俺だが、ふと、思いついた。
翌日、ルドルにこの思い付きを話してみると、なんと!見事成功した。
方法は一度魔力をがっつり入れる。そして、抜く。そして人族が人体実験してもいいってくらいまで改めて入れる。不思議なことに、一度強大な魔力にさらされた飴はそれ自体が魔力物質になり、魔力保管に適したものに変質していたんだ。
風船をイメージした俺の勝利だ。新品の風船は膨らませるのに大きな力がいる、でも、空気を抜いて二度目を入れると小さな力でも膨らませられるってこと。
さあ、いよいよ人体実験だよ。モックお待たせ!




