66.地下道へ
早朝から出発した俺達は、日が昇る前には、東ルート、南東ルートに分かれて地下道入りしていた。
というのも、早朝まだ暗いうちや深夜寝静まった頃に、ドドドンと音がすることが多いと言うからだ。
「寝相が悪い凶悪モンスターが住み着いているとかかな?」と少々ビビりながら聞く。ライトの魔法で明るくしているとは言え、薄暗い地下道に響く自分の声。不気味さは隠せない。だけど、ティルマイルに、
「我が君より強いものが存在するとは思えません」と素っ気なく言われてしまった。
地下迷宮の異名の通り、多くの分岐で既に帰り道が分からない状態。地図があっても細かい道は載っていないとは、地図の意味あるのか?それとも地図が出来て以降増設されているのか?
俺は記録係として同行しているはずだけど、記録はティルマイルがとってくれている。
何度も行き止まりや、不思議な祭壇などに遭遇して、行ったり戻ったりをした頃、『ドドドン』と和太鼓のような音が響いた。石造りの地下では非常によく響く。大音響だ。
「これは、楽器の音でしょうか」
「こんな朝っぱらから迷惑なことですね」と二人が驚いている。
確かに、こっそり地下でこそ練するには大音響で、潜められていないし、時間帯も異常だ。そうこうしている間に、『ドドドド、ドドドド』と連続して、唸るような音になってきた。
「あ~、これを聞くと、何か巨大生物がうごめいているように思っても仕方ないかな~」
「そうですね。音の方へ向かってみましょう」
向かった先は、開けていた。立派な祭壇の前で和太鼓とティンパニが合体したような楽器を無心でたたく20人近くの集団がいた。取り敢えず、状況を確認するべくこっそり様子を窺う。
音楽や舞を奉納する文化は前世でもお馴染みなので特段不思議に思わなかった俺だが、ティルマイルは驚愕の表情を見せていた。
「これって、ダメなヤツ?悪魔崇拝的な?」と小声で聞く。
「いえ、禁止されている訳では……、これは……。黒龍王を排除して、神と直接繋がろうという宗教だと思われます。私も文献でしか見たことがありませんでしたが、特徴的な太鼓の絵が印象的だったので間違いないかと」
「それって、どういうこと?」
「つまり、神様は存在するけれど、黒龍王が独り占めしていて、一般庶民はのけ者にされている。という考え方の宗教です」
「のけ者?だから、太鼓叩いて神様を直接呼び出そうって訳?」
「それもあるでしょうけれど。私が見た文献では、黒龍王を排除する方に重きを置いていて、それを鼓舞するものかと思います」
「なんとも無茶な宗教ですね」とビリーヤは驚きを通り越して呆れている。
向かいの柱の陰にサリアとカマラテが見えた。手招きすると、認識阻害を強めにかけて透明人間状態で中央を横切って合流してきた。ティルマイルはそれをみて、
「あの程度の認識阻害が認知出来ない程の実力で、我が君を排除しようなどとは愚かなことです」と怒気を滲ませながらつぶやいている。
ファイアドラゴンの怒気、アチチです。ドードー。抑えて抑えて。
全員揃って、広間を観察しながら事情を説明する。それを聞いたサリアは周囲を凍らせそうだ。ドードー。俺は鳥さんになった気分だ。
神様から任命された黒龍王が、その信者からの排除対象とは、これいかに。




