62.お休みゲット
それからの毎日は、平穏に過ぎて行った。
夕飯作りはモックの指導が良いのかドンドン上達していって、最近ではアレンジ料理まで作れるほどに。
「我が君に美味しいと召し上がっていただいて、感無量でございます!」と泣き出しそうなのはティルマイルだ。彼は、黒龍城に帰ってからも調理場に出入りし始めそうだとビリーヤが揶揄う程ハマっているようだ。
サリアとカマラテは色々と食べ歩いた結果、スイーツが気に入ったのでそちらを作ってみたいと、プープルさんに弟子入りしている。
以外にもサリアが大雑把で、
「お菓子作りには向いていないわね」と、プープルさんにダメだしされてしょげかえっていた。可哀想だけど可愛い姿だった。
ビリーヤは、全く興味がわかないので違う仕事はないかと直談判にきた。それなら派遣屋に行って興味のありそうな仕事をしてみたらいいと進めてみた。側近候補としてひたすらエリートコースを走ってきたにしては、くだけた性格のビリーヤなら楽しめるだろう。
「ビリーヤさん、くれぐれも力加減を注意してくださいね。光の妖精は、暗い場所で光を供給できるというのが売り文句で仕事を探します。雷を出すのは勿論、素早く飛ぶというのも、長時間飛ぶというのも控えたほうがいいでしょう」とプープルさんがアドバイスしてくれた。
「わかりました。それに、本性を見せろといわれたら、認識阻害で姿を見えなくして、明かりを出す。ですよね。バッチリです!」
楽しそうだなぁ。と思って見ていると、ルドルが、
「ソウ君も明日はお休みにして、付きそいで行ってみますか?ソウ君はセルゲイとシピリー町の派遣屋へ一度行ったのでしょう?」と勧めてくれる。
「うわ!お休みいいの?やったー!ビリーヤ俺が案内してあげるよ!」と、違う町での一度の経験だけで、知ったかぶって言ってしまった。
ちょっと照れ臭いけど、テンション上がっているから許して。
「ソウ、そんなに休みが欲しかったのか?」とセルゲイに驚かれる。
「ううん。ルドル先生と研究所に行くのとっても楽しいよ。でも休みって言われるとテンション上がらない?条件反射だよ」と力説した。嫌なのかって勘違いされるとダメだからね。
「まあ、分からんでもないがな」
「でしょ~!」
「じいさまは、とっとと親父に村長を譲って、『毎日お休み計画』を躊躇なく実行するような人だからな」とモックはセルゲイを揶揄っている。
プープルさんと楽しむために早期引退を決め込んだようだ。自由人っぽくっていいな。
ま、俺は、毎日遊び暮らせと推奨されすぎて、今、人族として働いている変人だけどね。
という訳で、やってきました、派遣屋さん。何故か側近全員で来ている。
ビリーヤだけが俺に付き添われてお出掛けなんて、ありえない!という事だそうだ。夕飯はモックに一任された。ティルマイルはその代わりに朝ごはんを気合入れて作ってくれた。
いやもう、お留守番して夕飯作っててくれてもいいんだけどね……。
さあ、山盛りの豪華な朝ごはんをたいらげて出発だ!
「あ、場所が分かんないや」と言うと、ルドルが笑いを堪えながら地図を書いてくれた。
側近のポンコツがうつったに違いない。
ポンコツの黒龍王とはこれいかに。