56.山頂へ
翌日朝食の前に皆に集まってもらって昨晩の出来事を話す。
「トトメロ山かあ。皆さんは飛べるからひとっ飛びでしょうが人族からすれば難儀な山ですなぁ」とセルゲイ。
「今は……、飛べないようです……なんてことだ」お通夜か?ここはお通夜の会場でしたか?というくらいの重苦しい空気が漂う。ティルマイルの絶望した儚い声だけが、そっと響いた。
「妖精って飛べるイメージがあるけど飛べないんだ」
「そうね。風の妖精は幼いうちから飛べるけれど、それ以外の妖精は100歳くらいで飛べるようになるわね。皆さんはまだ妖精になりたてだから飛べないのかもしれないわね。ま、花の妖精は、飛べるようになったとしても数分くらいだから、とても山頂までは無理だけどね」とプープルさんが教えてくれる。
ごめんね。せめて風の妖精になれって言えばよかったかな。
「取り敢えず、ルドル先生を研究所まで送ってから山に向かう?自力でってどこまでが自力なんだろう?俺が山頂付近まで連れて行ってもいいのかな?」疑問は山積みだが、神様はあの後すぐに「ほなな~」と笑いながら消えてしまったのでもう聞けない。
「トトメロ山は北東方向にみえるあの山です。東の領の中では最も雪深い場所ですが、我が君にお連れいただけるのであれば、ひとっ飛びでしょうからすぐにでも行って帰ってくれば済むのではないでしょうか?自力の定義が、自分で花を摘んで蜜を吸うというのであれば、ですが」
「そうでなければ、自力で山登りをしなくちゃいけない訳ね。取り敢えず我が君のお力をお借りしましょう。よろしいですか?」
俺が引き起こしたことなので、否やはない。
「側近の皆さん。考えたこともないかとは思うけれど、山頂は寒いわ。まずは防寒着を買わなくちゃいけないわ」とプープルさんに言われてきょとんとする。
そういえば、ドラゴンに転生してから厚い寒いで服を着たことなんか無かったな。竜族恐るべし。
防寒着かぁ。その為だけに買うのももったいないかなぁ。
「魔法で温かい空気を作って、それで包んで行こう!」と提案した。
ルドルに、ソウ君は何でもありですねぇと笑われた。
取り敢えず、一日色々試してみて、ダメなら明日は研究所までの旅を再開して、送り届けた後に装備を揃えて山頂アタックするという流れになった。
という訳で、4人を温かい空気の膜に包んで浮かせる、一気に行くよ~!
人族として旅をする!って言ったので、意識して、魔法を使っていない気になっていたけれど、暑い寒いにも気づけないんじゃ、人族になって、とは言えないなぁ。なんて思いながら飛んでいたら、あっという間に山頂だ。花は雪の中にあるんじゃなくて、山頂の祠の奥に群生していた。
「さあ、花摘んで蜜吸って!」と促す。
何にも起きない。ダメなのかな?俺の温かい魔法を解く。皆は寒さに震えながらも、もう一度花を摘んで、吸う。やっぱり何も起きない。
「祠から一旦出て、そしてもう一度、自分達の足で入ってきて、吸うことにしましょう」とガタガタと震えながらサリアが提案する。もうタイムリミットかなぁ。防寒着があればもう少し色々試せたかな。急がば回れとはこのことか!なんて思っていたら、【ビカっ】となった。
きた~~~!!




